2017/12/14 に、アルスラーン戦記の最終巻『天涯無限』が発売されました。
私は、正直に言うならおそらく田中芳樹の全作品中、一番好きな話でした(ファンタジー好き)
それだけに、この作品は本当に好きだったんですが……。
いかんせん、執筆期間が長すぎた、ということによる弊害をもっとも受けてしまった感じがありました。
あ、この先は愚痴とかも入ってるし、そもそも容赦のないネタバレを含みますので、見たくない人はさくっとこのページから退出してくださいね。
さて。
私がこれを読み始めたのは、高校三年の多分初夏。
当時、サイレントメビウスという漫画がアニメ化されて、それを観に行くにあたり、同時上映してたアルスラーン戦記の原作も読んでおこうか、程度で読みました。
買った場所も覚えてる……確か保土ヶ谷駅の駅前にあった本屋です。学校に行く前に買った(笑)
続きが気になると何だから、と1巻と2巻同時に買いました……が。数日後には出てる限り(当時第一部がちょうど終わってた)を全部買ってました(笑)
まあそれくらいに面白かったんです。
実際、第一部に関してはほぼ文句つけようがないほどに面白かったです。
すごくひどいことをいうなら、文句つけずにありたいなら、第一部で読むのをやめてもいいくらいに。
まあつまり、それほどに第二部は微妙だったのは否めません。
印象が薄い、とも言いますが……。
なんせ、ずっと読んでいなくても、第一部はサブタイトルだけで話の大体の内容を思い出せます。
また、第二部も『旌旗流転』までは同じくほぼ内容を言えます。
が。
それ以後になると、正直覚えが怪しいです。
まあ、詰め込まれた伏線を鑑みるに、おそらくそれらを十分に書ききるには全然足りなかった結果、説明不足で適当になっちゃったんじゃないかと思うんですよね。
実際、旌旗流転以後に登場して、適当に回収された(と思われる)伏線っぽいものとして……。
- 蛇王ザッハークの正体
一番適当に回収された伏線。
古代の(おそらくジャムシード時代、つまり少なくとも1000年くらい前?)の魔道、錬金術によって作られた人造生物と判明……したのですが。
有翼猿鬼とかが子供がいないみたいなのにどうやって増えてるんだろう?とかいう疑問が語られ始めたのが最終巻、という時点で……お察しです。
ナルサスは以前から調べてた風でしたが。
さらに言うと、これらの技術って、おそらく今も絹の国とかには残ってる技術じゃないでしょうかね……。
ルクナバードも、その蛇王に対する対抗策となってますが、そもそもアレには人を選ぶ機能が備わっている模様。
それを考えるとただの魔道武器とも思えないのですが(そしてアルスラーンがその判断を信用している)、その辺りは結局語られず。
- タハミーネの子供
こちらもさくっとアンドラゴラス=蛇王から暴露されました。
これに関してはかなり前から伏線っぽいものは多数だったのにねぇ。
結局男児が死産だったため、アンドラゴラスが娘で、しかしもう子を産めないから男児を仮に立てて、娘は(それっぽい腕輪を与えて)適当に3人ほど選別し、放逐した、ということのようで。
これがパリザードやフィトナ、レイラの3人。
パリザードは気持ちのいい女性だったので、彼女が生き残ったのが、数少ない救いだったかも。
- 尊師の正体
これは逆に最後まで謎のままだった……。
おそらくは魔道や錬金術使って人間やめた存在なんでしょうが、まあひどくあっさりとルクナバードの餌食に。
FEでいえばマンフロイみたいな存在でしたがねぇ。
正直最後の3巻くらいは、プロットという名の死亡リストに従って、キャラを使いつぶしてる印象はぬぐえませんでした。
無駄死にとしか思えないジャスワントとか……ねぇ。
まだナルサスのほうがマシだったというのだから驚き。
正直に言うなら、同じ十六翼将でも、第一部で万騎長の地位にあったキャラ、およびアルスラーン個人に仕えてるに等しかったキャラ以外は、多少おざなりでも仕方ないとは思ってました。
ひどいこと言うと、イスファーン、ザラーヴァント、トゥースあたりは印象が薄いし。
なんですが、ジャスワントなんて、メイン5人と万騎長以外で、初めてアルスラーンに仕えたキャラで、その描写の数は他とは比較にならないほどです。
それが、あんな場面で……というのはちょっとなぁ、と。
正直、特に蛇王の正体やタハミーネの子供の件は、ホントはもっとちゃんと膨らませるべきことだったと思います。
そもそも、蛇王のそれなんて、よくあるRPGではPCが古い記録を見出して手に入れる類。
まあ、さすがにアルスラーンが探索の旅に行くわけにも行かないから、部下たちがいろいろ集めて、ナルサスが調べて、最後はルクナバードが必要になってアルスラーンも一緒にいって情報を得る、とかそういう予定もあったんじゃないかと。
それだけで多分一冊終わりますが(ぉ
でも、そういう話が蛇王が蘇る前後にあるだけで、全然変わってくると思うんですよね。
それが蛇王自身がぺらぺらしゃべって終わりなのは……なぁ。
あと、終わり方もちょっと。
亡命政権というか、強大な他国の庇護を得て、というやり方はまあ分からなくはないですが、とはいえエクバターナは100万人の人口を抱える大都市です。
そして、いくら蛇王が攻撃したとはいえ、別に毒に侵されたというわけでもなく、国も都市もちゃんと残ってるはず。
それを全部放り出して、シンドゥラの庇護の下、しかも50年の月日をほぼ無為に過ごすってのは……ちょっとどうなんだろうか。
シンドゥラの力は必要だとしても、エクバターナに残った将兵や人口があれば、十分に再興は果たせるはず。
まあ、国王不在なのは厳しいかもですが……そのためのシンドゥラの保護でしょうし。
そもそも、ルクナバードが王位継承の剣になってますが、あれ、人選すごく厳しそうですから、次の王選ぶのは厳しいとすると、なんか特殊な王政になりそうですが。
(これに関しては昔、TRPGやってた頃に作ったオリジナル世界で、剣が継承者を選ぶ国をデザインしたことがあるので、不思議な感じでしたが)
それに、半世紀も過ぎてしまっていては、大陸公路自体は今だって使われてた(魔軍は消えてるでしょうから)のだから、それなりの勢力が興ってるはずで、そこにアルスラーンの遺志を継ぐ存在だからといって……素直に受け入れられるとは思えないので、結局ロスタムはその後大きな戦乱の末の建国の祖になるんだろう、とは。
いくらなんでもそれはどうなの、と思わざるを得ないです。
エクバターナに留まり(当然シンドゥラの後ろ盾有り)、アルスラーンの遺志に基づいてルクナバードに選ばれる人がいずれ王になるまでの間、暫定政府がある状態なら、分かるんですが。
エクバターナの勢力があれば、それでもある程度はやっていけたはずで……なぜそれをせず、事実上民衆百万人を無政府状態に放り出すようなマネをしたのか……さすがにちょっと分からないです。
これが、個人なら全然アレでいいし、あるいはエクバターナが廃墟になったならまだ分かるのですが……違うよね、アレ。
この最後を最初から決めてたのか、もう最後にやっつけ的に片付けたのかは分かりませんが……。
同じ作者の銀英伝に比べると、ちょっと……と思わざるを得ませんでした。
もっとも、この辺りの設定に関しては、そもそも少なくとも700年くらいは、パルスはザッハークに支配された魔国であったはずで、他国がそれをまったく知らない、というのは不自然だなぁ、というのがあったんですけどね。
とはいえ、四半世紀にわたって楽しませてくれた作品の完結はうれしいです。
そこは文句なしに、お疲れ様、と思います。
元の構想だと、外伝が予定されてますが……本人は書きそうになよなぁ。
すごく読みたいんですがねぇ。
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