「おめーみてえなひよっこにゃ、まだ夢から醒めるのははええんだよ」 そういって背中を叩かれた。……そんな気が、した。 「ふっ。せっかく死の螺旋から抜け出た世界だ。そこで、一番希望に溢れていなきゃならないあの娘があれでは、お前の物語はまだ終わってない、ということだろう」 そういって、さらに、押される。 「一人ぐらい、お前みたいのがいてもいいだろう。俺みたいな、未練で留まるわけじゃない」 最後の一人は、少し複雑そうな表情をしていた。 「なんか……こういう気分を味わえるとは思わなかったんだが……」 そういって、照れくさそうに笑う。 「娘を、頼むよ」 「行って来い。行って、夢に縛られない、お前の物語を完結させて来い」 「泣き虫治してからこっち来やがれ」 「まあ、元気でね」 突き動かされるように数歩歩き出してから、ふと思い立って振り向いた。 「オヤジ」 「あん?」 「次に会う時までに、ちゃんと老けとけ」 人ならざる存在に身をゆだねていた間、彼は一切の時間をも止めていた。 しかし、その時もまた動き始めたはずである。 「言ってろ、このガキっ」 その言葉を最後に、視界が暗転した。 足元が、ふっと軽くなる。優しい、そしてなじみのある感覚が、いつの間にか周囲に満ちていた。 こぽ、という音がする。それが、自分の吐いた呼気であることに気付くのには、なぜか少し必要だった。 回りには誰もいなくて、ただあるのは、水。 聞こえてくる音は、かすかな泡の音。そして。 ピーーーーーーっ!! それは突然、響き渡った。 その音で、彼は完全に覚醒し、目を開ける。 淡い、エメラルドグリーンが、視界を満たしていた。 ピーーーーーーっ!! もう一度聞こえる、音。 懐かしい音だ。誰にでも出来る、指笛。だがなぜか、彼はその指笛を鳴らしている者を知っていた。 手足を動かしてみる。馴染んだ水の感触が肌を伝い、そして彼はその水をかいて水面を目指した。 光が、まるで自分を迎えるかのように降り注いでいる。 その光で、水面の向こうは見えないが、彼はそこに誰がいるのかが分かっていた。 水をかく動きに、力が入る。さらに加速し、そして、一気に自ら飛び出した。 思ったとおり、彼女はそこにいた。飛び出しすぎて、バランスを崩した彼は、それでもその彼女が伸ばしてきた手を掴む。 前に触れることすら叶わなかったその手に、今度はあっさりと触れることが出来た。 そのままバランスを崩して二人とも倒れてしまい、上体を起こしたとき、彼女もまた座り込んだ状態でこっちを見つめていた。その瞳からは、涙が溢れている。 「えっと……その……」 話したいことは山のようにあった気がするのに、なぜか言葉にはならなかった。涙に濡れた彼女の顔を見たら、全てを忘れてしまったかのようだ。 それを見て、彼女は、涙を拭うことなく、にっこりと笑った。直後、陽が煌めき、涙がまるで宝石のような美しさを見せる。 「お帰りなさい、ティーダ」 「……うん。ただいまッス、ユウナ」 |
祈り子達は夢を見つづけることをやめた。 しかし、紡いだ夢は、新たなる世界を生み出す力となった。 祈り子達が見ていたのは夢。 ただそれは、夢で終わることをしなかった。 そう。 夢の続き。 それはまた、新たな物語の始まりでもあるのだ…… |
唐突に書いてみた話。書いた前日にFFXをクリアしました。で、そのラストシーンから。というわけでネタバレです。まあネタバレ気にする人が該当するゲームの小説なんて読まないでしょうけど(^^; とりあえず……私はこういう風に解釈しました、というところです。 やっぱりハッピーエンドが好きですね、私(w それにティーダとユウナのイベントはめっちゃ好き〜〜〜〜vvvv |