「だから我輩の深淵なる知識の泉から沸く水の流れが海に届くほどに考えた結果、輝かしい青少年の未来は永遠の暗闇の中にあって閉ざされてはいけないトカ。ゆえに青くて頼れるお兄さんが恍惚たるその剣を抜き放ち、この宇宙最大の神秘たるこの我輩とともに来なければならないトカ」 「い・い・か・ら。か・ん・け・つ・に・言・え!!!」 ここはかのロードブレイザーを滅ぼしたガーディアンブレード・アガートラームの眠る森。そして、あの侵食異世界カイバーベルトとの戦いにおいて犠牲となった――多くの人々はその事を知らないが――ヴァレリア家最後の当主、アーヴィングとその妹アルテイシアの眠る場所である。 そして今そこに人影が二つ。いや、正確に表現するならば、一つは人影とは呼べないだろう。 一人は紛れもなく人間だ。収まりの悪い青い髪と、銃剣を持っている。 公にはそれほど知られてはいないが、彼こそ、ロードブレイザーの力を持って侵食異世界カイバーベルトを倒し、そして返す刀でそれまで世話になった恩などまるで無視してガーディアンブレード・アガートラームでロードブレイザーをぼこぼこにぶちのめしたアシュレー・ウィンチェスターである。 そしてもう一人(?)は、というと。 短い足。妙に細い手。首と胴の区別がつかない――というか肩がない。そんな人間がいるはずはないだろう。 大体全身が緑色の人間なんて見たくもない。 そう。立っていたうちの一人(?)は自称天才宇宙トカゲ、トカである。 かつてオデッサの科学班統括として辣腕を振るった……とは本人の弁。実際にオデッサの構成員とこの変人トカゲ――もとい、トカとその相方(相棒よりこっちの方がしっくり来ると思う)ゲーが一緒に行動しているのを一度も見たことのないため、本当かどうかは極めて疑わしい。話を聞いていると本当らしいが……そもそもトカの話を聞けてしまう自分が、時々嫌になっているアシュレーである。 「とにかくそのガーディアンブレードがいるんだトカ。でないと我輩の大切な相棒にして偉大なるカガクの道を共に歩くと誓ったゲーがヘイムダル・ガッツォーが墜落したときに下敷きにされた小さな花の種が芽吹いたのと同じくらい大変なんことになるんだトカ」 それはそれでめでたいことじゃないのか?アシュレーは言いたかったがトカが続けて喋り続けたため、ツッコミを入れるタイミングを逸してしまった。彼としては大失態である。 「我輩の相棒ということは、とりもなおさず諸君ら(どこに他に人がいるんだ)の同志とも同じですぞ。ならば粉骨砕身、身を粉にする想いでパン粉を作るように協力するのは当然だトカ」 相変わらずでたらめな表現だ。 第一、パン粉、などとトカに言われるとなんか家の稼業(今はマリナと一緒に経営している)が侮辱されたような気がする。いっそのこと、この場でトカの息の根を永久に止めてしまえば……などと最強の銃剣シューティングスターを握る手に力がこめられた。 だが、思い直して力を抜く。 こんなやつでも、一応ファルガイアの――いや、正確には宇宙トカゲだが――住人だ。その命を、無闇に奪うことは許されるはずはないじゃないか――。実はこの温情にこそ、トカがつけこんでいるトカいないトカ……違う、口調が伝染った。 とにかくアシュレーは力を抜いた。 今日は厄日だったんだ、と諦めに似た感情が彼を支配する。 思えば、あの戦いの中でトカに出会った時から、全てが――とは言い過ぎかもしれないけど自分に関する限り、相当狂ってしまったような気がする。ついでに巻き戻しもやり直しもきかない。これがゲームなら途中で投げ出してしまえばいいのだが……残念ながら、彼はまだ人生を投げる気にはなれなかった。生まれてまだ一年しか経っていない可愛い二人の子供のためにも、なにより愛するマリナのためにもっ!! ……などと一人シリアスをしてみようと思ったが、横に立っているのがファルガイアでも最もアヤしい宇宙トカゲである以上、それはムダなことだった。どこまでいってもマジメになれるはずがない。 「とにかく頼りになるお兄さんは我輩の崇高なる理想と矜持と栄光のための踏み台を踏み抜きつつ、青少年達に新たなる道標を示し、永遠の繁栄を享受する我輩と共にくるんだトカ」 単語一つ一つはまともだというのに、合わさるとなぜここまで怪しいものになるのだろうか。一度その頭をカチ割って中身を見てみたかったが、いくら宇宙トカゲといえど、その中にあるものは人間とそう大差ないものが入ってる……はずだ。ふと違うかもしれない、中を見てみたら……という考えが頭をもたげたが、こんなトカゲでも殺してしまうと自分でも罪の意識に苛まれるのではないだろうか、という懸念が彼に凶行に出ることを踏みとどまらせていた。 頭を割っても死なないかもしれない、という考えもなくはなかったが。 |
「で、結局何があったって言うんだ?」 「それなんだトカッ!!」 声が無意味にでかい。思わずアシュレーは耳を押さえた。ちなみにアガートラームは一応持ってきて今はシューティングスター用の鞘に入れている。シューティングスターは代わりにあの森においてきた。盗られるかもしれないが、さすがに二本も持っていくのは重いし、実はあの森には一応盗賊対策でいくらか罠が仕掛けられている。逆に言えば、久々に詣でたアシュレーは、あそこでトカが先回りしている事実に、少なからず驚いたのである。罠は一つとして作動していなくて、かつトカは中央の墓に来ていたのだから。 ――実際にはかかった罠を全て同じに戻した暇なトカゲがいたトカいないトカ。 ……閑話休題。 「言っておくが、簡潔に頼むぞ」 ムダと知りつつ、アシュレーは言わずにはいられなかった。するとトカは、得心したように力強く頷いて口を開く。 「ゲーがピンチだトカ。ほら、簡潔ですぞ」 「簡潔過ぎるわ!!!」 アークインパルス。本来は味方のFPの六十倍のダメージを出す技だが……一体誰が力を貸してくれたのか、あのロードブレイザーと戦ったとき並のダメージを炸裂させた。クレーターのような技の痕跡の中心にトカゲ一匹。普通なら確実に死んでいるが、付き合いの長くはないが濃いアシュレー……(げしぃ!!)……そこっ、画面外(?)にツッコミを入れないっ!!……ともかく知りたくもないのに知ってしまっているアシュレーは、この宇宙トカゲがこの程度では死ぬことはないことはよく知っている。 「いきなりなにするトカ!!いくら我輩の生涯の相方とは言え、これはあんまりだトカ!!あんまり強烈過ぎて、我輩、ワシントン条約で保護されているはずのアフリカ象に踏まれたエリマキトカゲになった気分だトカ!!」 すでに分からない単語がいくつか。 大体いつ自分がトカの障害の、もとい生涯の相方になったのか。 アシュレーはもう一撃してやろうか、という誘惑をかろうじて耐えた。 これ以上話の腰を折っても、時間の浪費である。 「とにかく、もう少し詳しく、でも簡潔に頼むよ」 ―――― 間 ―――― アシュレーは、二度とトカに『詳しく』とは言わないと心に誓った。 その誓いは、マリナへの愛の誓いと同列に置かれるほどに真剣で、そして破られてはならないものだった。 |
トカの説明を要約するとこうなる。 トカ達は宇宙に帰るためのエネルギーを欲していた。だが、ファルガイアに貯められていたエネルギー『マナ』はかつての対カイバーベルト作戦『トラペゾヘドロン』で使いきっている。空中要塞ヘイムダル・ガッツォーのウィザードステルスを起動させていたエネルギー『魔界柱』もアシュレー達ARMSがその機能を停止させてしまっていた。 ちなみにここまでの説明でかるく一時間を浪費している。途中にトカの意味不明の活躍話などが入っていた……というよりはトカの活躍話の合間に聞くべき話が入っていたというべきか。 話は続く。 トカが次に求めたのはガーディアンのエネルギーだった。 ガーディアンの意志が結晶化したミーディアムと呼ばれるプレートはアシュレー達が恐らくほとんどのガーディアンのものを集めて、今はティムが隠れ里パスカーでまとめて保存しているはずだ。 だが、ガーディアンの力は衰えたとは言え、今もファルガイアの全てに宿っている。もしかしたら、ミーディアム以外にもその力の集まる場所のようなものがあるのかもしれない。あの『生贄の祭壇』のような場所が。 とにかくトカは「科学的に」探したらしい。ちなみにトカの言葉で語られた「科学的」とは「全ての世界の老若男女を幸せにしようと宇宙の深遠から光の速さで訪れた知識を元に、我輩のこの広島平和会議で聴衆の全てを感涙の海に溺死させるほどの弁舌を振るえるこの頭脳の粋を大宇宙の星のごとく散りばめて、空のかなたより結集させた知識を総動員して」ということらしい。すでに意味不明である。あるいは、これを「科学的」と要約できてしまうのはもはや自分が異常なのだろうか、という懸念も出てこなくはないが、そもそもこの訳であっているのかは疑問が残る。 とりあえず考えたら負けだろう。 とにかくトカはガーディアンの力が集まっている場所を見つけたらしい。それは、かつてドラゴン・ロンバルディアが眠っていた休火山――現在では頻繁に噴火を繰り返すようになったあの火山であった。 普通ならここで諦めるところだが、トカの宇宙へ帰りたい、という情熱の前には、火山ごときは障害にならなかったらしい。その点に関しては、少〜しだけ見なおした。一応ちゃんとファルガイアを出て行ってくれるつもりはあるらしい。 そこでトカとゲーはなにかのガーディアンに会ったらしい。本当にいた、というのが驚異的だがこの際目の前の宇宙トカゲより驚異的な存在もいないと思えるのでアシュレーはあまり驚かなかった。 「ところがだトカ」 ……実はまだ話は終わっていなかったのである。 「我輩はついにガーディアンを見つけたトカ。ところがこのガーディアン、まるで我輩の相方の様に言うことを理解してくれないだトカ。我輩が懇切丁寧に、それこそ天空から落ちてくる隕石が地上に落ちて地上を焦土と化すほどの熱い情熱を込めて説明しているのにですぞ?!このファルガイア全てに愛されている我輩の言葉を、まるで聞こうとしないトカッ!!」 「……それで、どうしたんだ?」 すでにツッコミを入れる気力は、アシュレーにはなかった。 「仏の顔も三度までトカ申しますトカ。我輩、仏より情けがあると自負していても十秒も無視されたら堪忍袋の緒が綱引きの綱のようにぶっつりと切れてしまったトカ。だから我輩、ゲーに『昆虫採集セットミラクルブレンド』をうって懲らしめてやろうとしたんだトカ」 「………………………………………………………………」 すでに言葉はない。 十秒でそんな仕打ちを受けたガーディアン(とトカが思っているもの)が怒っても、それは無理なからぬことだろう。 「そうしたら、そのガーディアンが突然あのブルコギドンと共に宇宙のダンスホールで軽やかなステップで踊っている我輩に嫉妬した星々のごとく暴れ出したのですぞ。ただちょっと、ゲーが『大回転ハイアングルエビ反りスクリューパンチ』をかましただけだというのにっ」 ネーミングはともかく、ゲーの攻撃は決して「ちょっと」といえる代物ではないことは、何度か戦ったアシュレー達はよく知っていた。いきなりそんなもので殴られたら誰でも怒るだろう。ガーディアンの中には、反応がやたら遅いものだって、結構いる。 「それで、どうしたんだ?」 ちなみにすでに陽は暮れていて、夕飯までに帰ろうと思っていたアシュレーの望みは、絶望的となっていた。先ほど、感応石でマリナには簡単に事情を伝えてある。マリナも、ことトカに関しては色々聞かされていたため、「それじゃあ仕方ないわよ。頑張ってね、アシュレー。待ってるから」と優しく言葉をかけてくれた。正直、すぐにでもタウンメリアの家に帰って、マリナの手料理を食べてふかふかのベッドで眠りたい。 アシュレーはすでに一生涯分の忍耐の、半分は使ってしまったという気がしていた。かつては、まだ仲間がいたから耐えられた。だが、今は……一人である。誰かが「人は一人では生きられない」という言葉を残したというが、それはまぎれもなく事実であることを、アシュレーは痛感していた。次からはリルカやブラッドも巻き込もう。 ここでマリナの名前が出ないのは、単に彼女にだけはこの変人トカゲには関わって欲しくない、というアシュレーの優しさである。 それはともかく。 先を促されたトカは、嬉々として――アシュレーにはそうとしか見えなかった――続きを語り始めた。 「まるでサンバと盆踊りを同時にステップしてるかのようなガーディアンとゲーの熾烈な争いが火山を揺らしたトカ。大地が崩れ、空は割れ、海が裂けるような阿鼻叫喚の地獄絵図ッッッ!!!」 一体その戦いの中でトカが何をやっていたかが気になったが、それについても言及するのを、アシュレーは避けた。 「そしてついに、ゲーの新必殺ワザ『超回転ノンストップスピントリプルダブルターンパンチ』がにっくきガーディアンを捕えたその時ッッ!!!」 ガーディアンに力を貸してもらいに行ったんじゃないのか?とは誰もが思うところだろうが、これ以上余計な文章書きたくないので割愛する。 「めくるめく光と音の共演が我輩のつぶらな瞳の全てを覆い尽くし、我輩の体は光合成できる喜びにうち震えつつ噴煙と共にさながら激流を遡る鮭のごとく舞い上がったトカ」 トカゲが光合成できたのか? 第一噴火にまともに巻き込まれて生きているトカが信じがたい……が、多分『カガク』で何でもありなのだろう。一度、マリアベルと科学談義をしてもらいたいものである。会話にならないだろうが。 「その我輩の目に最後に映った光景ッッ!!ああッッ思い出すだけでもB級ホラーミステリー映画並の恐怖がわが身を襲うッ!!」 アシュレーはそんなものは見ないので基準はさっぱり分からない。 マリナと映画に行くことはあっても、お互い興味のないそんな分野をわざわざ見に行く理由はないのだ。 「ちなみに我輩が好むホラーとしてはやはり……」 そこでさすがのトカでも一瞬言葉を飲んだ。アシュレーが凄まじい目つきで睨んでいたのである。ちなみにアガートラームがチリチリと震えている。 「と、とにかくその、我輩が見たとんでもないものとは!!!」 まるで何かのイベントの司会者のように、勿体つける。なぜかどこからともなく小太鼓の音が聞こえて、いくつかのピンスポが動いているのが見えた気がするが、アシュレーはこの先の自分の精神の安定のために気のせいで片付けることにした。 「よく見えなかったんだトカ」 ドカン!!!! ショットウェポンのマガジンが一気に空になった。フルフラットである。いつの間にかアシュレーの手にはシューティングスターがある。偉大な武器は持ち主の危機に駆けつけるというが、この銃剣はまさにそれだったらしい。かろうじてアークインパルスを撃つのを躊躇ったのは、トカを気にしたからではなく、この辺りの地形が大幅に変わるのではないか、ということを懸念しただけである。 「な、何をするんですと!?」 「もう一回喰らいたいか?」 完全に据わりきった目でアシュレーはバイアネットの弾を充填している。 「これはこの辺境惑星全体の危機だトカ!!かのロードブレイザーだって、元は炎のガーディアンの翼から誕生したんだトカ。もし手傷を負ったガーディアンから新しいガーディアンが生まれたての赤ん坊のように無垢な心であったなら、最初に我輩のようにまるで底まで見えるような水たまりのごとく清らかな心の持ち主に会えばともかく、邪悪なやつが偉大なるカガクの邪魔をするようならば、ここで叩きのめさないとダメだトカッ」 思わずアシュレーは絶句した。 ロードブレイザーの発生に関しては、パスカーの隠れ里の秘事とされている。というよりパスカーでも知る者はなく、ティムが超意識体ガイアから断片的に授かった情報から推測されたに過ぎない。だがその結論は、ロードブレイザーは炎のガーディアンムア・ガルドの翼が分かたれて生まれた、ということらしい。 トカがこの情報を知るはずはない。とすれば、このトカゲはどうやってそれを知ったのだろう。 ちょっと聞いてみたい気はしたが、これ以上話を長引かせたくない、という想いが、アシュレーを踏みとどまらせた。 「……とにかく、要約するとゲーがガーディアンと戦って、その後はどうなったか分からない、と。そういうことだな」 「そうとも言うトカ言わないトカ……」 「これ以上他にどう取るんだ!!」 だれかこいつに言葉の使い方を教えてやれ、と思うがこの自称天災(誤字だけどこっちの方が正しいと思う)宇宙トカゲはそれはおそらく熟知している。ただ、余計なことを色々言ってしまうだけなのだ。 「とにかくゲーがピンチだトカ」 「分かったよ。とにかく行けばいいんだろう」 アシュレーは半ばヤケクソになって受け答えをすると、火山脇の洞窟に足を踏み入れた。火山は今も鳴動していたが、アシュレーにとっては火山の活動が少し鎮まるまでこのトカゲと一緒にいることの方が、何千倍も苦痛であったのだ。 |
「……なんとまあ……」 アシュレーはそれだけ言うと、ポカンと口を開けっ放しにしてしまった。 いささか間抜けな状態だが、この場合普通の人間なら、百人が百人、同じ対応をするだろう。 「ゲーゲーゲー」 そこには確かにゲーがいた。いや、多分ゲーだと思えるものが。 茶色っぽい体躯と人間離れした、もといトカゲな体格は間違いなくゲーである。ただ、それがでっかい甲羅に入っている。それが、あまりにも不自然だ。 「シトゥルダーク……か?」 その甲羅にはかすかに見覚えがある。水を司るガーディアン、シトゥルダークが確かそんな甲羅を持った巨大な亀の形状のガーディアンだったはずだ。だが。 なんでそれがこんなところにいるんだろうか。炎のガーディアンならまだしも。 と思ったが、あるいは火山を鎮めに来てくれたのかもしれない。だとすればありがたい話だ。ときたま、派手に噴火するこの火山からの噴煙は、時として遠くタウンメリアにまで達し、洗濯物が黒くなってしまう、とマリナがぼやいているのをアシュレーは思い出した。 ただ、そこで何かがあった。亀の形状を取っているだけあって、シトゥルダークはのんびり屋である。そこを、トカとゲーい攻撃されたのだろう。そして何があったか。それは、アシュレーにも分からない。 「もしかするトカ……」 「何か分かることがあるのか?!」 本当はこんなやつに聞きたくないが、もし何か分かることがるのなら、聞くしかない。 「我輩、ガーディアンの力というのが我輩が遠い故郷たる宇宙から旅立つより遥か昔、あの偉大なる太陽が見ている中で徐々に失われていって、今ではその我輩の心のように深い思いしか残ってないことは知ってるトカ。だから、ガーディアンからエネルギーを借りるにはまず太古の我輩のごとき素晴らしき実体を伴わせなければならないトカ」 よく調べたものだ。それにしても。 「トカ、お前、昔は姿が違ったのか?」 違ったら違ったで嫌な気はするが、だがそれはそれで興味というよりは好奇心がうずかなくもない。 「我輩、太古の昔は……あの全ての生命がカッコよく生きていける太陽に憧れて天高く舞い上がるハゲタカの如き自由に憧れた、トカゲ人間であったトカ」 「結局変わらないのかっ」 一種バイアネットの引き金にてがかかったが……かろうじて踏みとどまった。トカに遠慮したのではなく弾がもったいないからである。 「ゲーゲーゲー」 「おおッ、我輩の鮮烈にして苛烈なる脳細胞がッ。いまッ。封じられし大いなる過去を語るッ」 「いいから早く話せっ」 ドカン!!! マルチブラストを一撃。これでも遠慮した方である。 黒焦げになりながらも、トカはピンスポを浴びつつ高らかにアジ演説(?)を続けた。 「そこで我輩の宇宙創生以来の神秘たる頭脳は素晴らしき妙案をひらめいたッ」 存在自体が神秘というか異様だよ……とは誰もが言いたくなるところだろう。 「ガーディアンの意識を何かに宿せばきっとエネルギーを借りることも出来るトカ思えませんトカ?」 そこで同意を求めるな、とは思ったが一応頷いておいた。気が付いたらトカの立っている場所は一段高い場所になっている。いつ登ったのだろうか。 「そこで我輩は……」 以下略す。書くのが面倒になったとも言う。 とにかく異様に無意味な単語を連ねたトカの話を要約すると以下のようになる。 ちなみにその間、ゲーはひたすら「ゲーゲー」と言いながらその辺りを歩いていたことを追記しておく。 トカはかつてアシュレー達と戦った時にアシュレー達がガーディアンを実体化させてその力を振るっていることに着目した。そういえば確かに数回ガーディアンの力を使った記憶はある。アシュレー達は「個」を持たないという亜精霊プーカの力を借りてガーディアンを実体化させていた。プーカは「個」というものがないためにガーディアンの精神が宿ると、その精神の描く姿をとり、力を行使できたという。トカもまた、同じ結論に達したらしい。見ただけで分かったのだからやはり天才なのかもしれない。 それはともかく。 トカ達には亜精霊プーカはいない。仮にガーディアンの意志に接触できたとしても、ガーディアンを実体化することは叶わない。そのはずだった。だが、奇跡が――トカに言わせるとカガクの勝利が――おとずれたのである。トカがその天災的(誤字ではないです)頭脳を持って作り出したガーディアン用変身セット……もとい、ガーディアンの意志とのコンタクトを可能にするヘルメットをゲーにつけさせた。なぜ自分がつけなかったのかというと、テストをまだしていなかったかららしい。やはりゲーは実験台か、と改めて再認識する。 どうせ言葉などあまり意味はない――アシュレー達は確か言葉でガーディアンと会話した記憶があるが――ので、というのがその理由らしい。ガーディアンではきっと我輩の宇宙の果ての如き素晴らしく神秘に満ちた頭脳は理解できないだろう、と言っていたが頼まれても理解したくないだろう。ガーディアンでも。 とにかく装置は起動した。そこで奇跡が起きた――とはトカの弁。とにかく、ガーディアン・シトゥルダークがゲーに宿ってしまったのだ。 ところが。 ゲーは突然トカを攻撃したかと思うと、ばたばたと暴れるだけ。しかしさすがの(?)トカもこのままではまずい、とアシュレーに助けを求めた……ということらしい。 ……長かった……。 「結局、どうすればいいんだ?」 「ゲーが言うには、いまガーディアンの意志とゲーの意志とかぶつかって、ガーディアンの意志が宇宙相対性理論と生物学との融合のごとく捻じ曲がっているトカ。このままだととってもデリシャスな暴走が起きるといっておりますぞ」 ……多分デンジャーといいたかったんだと思ってあげよう。 ちょうどその時。その二人の見ている前で。 ゲーというか不完全なシトゥルダークが光を放った。同時に、アシュレーの心に何かが語りかけてくる。 『すまぬ……ガーディアンブレードを持つものよ。我が力の邪悪なる分身を滅してくれ……』 声は光と共に消え、アシュレーの目の前には良く分からないひれのようなものをつけたゲーがいた。目だけが邪悪に光り輝いている……が、所詮ゲーである。威圧感とか迫力に欠ける。もっともトカだったらさらにそういうものはないだろう。 「……一応、ロードブレイザーの兄弟……になるのか?」 確かに感じられる感覚は同じだ。水を司るガーディアンから発生したとすると、起こす現象は炎ではなく水か。しかし荒野の多いファルガイアだと、かえって歓迎されないだろうか、とは一瞬思ったが、一年中雨だとマリナや子供達とピクニックに行くことが出来ない、などと問題を酷く局所化して、アシュレーは目の前の存在を倒すことを決意した。 「た、たのみますぞ、青い人ッ。我輩の唯二にして、同胞(はらから)を邪悪なる野望を持った輩から救ってくだされッ。それでこそ我が友ッ」 唯二のもう一人が誰であるかについては、頭のどこかで理解したが、アシュレーはそれを無視した。 だが、敵(?)はその漫才を見逃さなかった。合わされた掌中から膨大な圧力を持った水流が……水流が……水鉄砲がアシュレーにかかった。 「冷たっ……って……これだけ?」 一瞬真面目になりかけたアシュレーは、がっくりと膝を落とす。発動しかけたアガートラームの鳴動が止まった。 「いまですぞ、青い人ッ。我々の同志たるゲーを救うチャンスですぞッ。今ならきっとゲーも許してくれるはずですトカッ!!」 だがアシュレーにはそれは聞こえていなかった。ややあって、アガートラームが再び鳴動し、アシュレーの全身を光が包む。それは、剣の戦士の出で立ち。かつて、ロードブレイザーを滅ぼした力である。 「……どうして、最後ぐらい……」 怒りにうち震えた声は、剣の戦士というよりナイトブレイザーの格好の方が似合いそうだ。 「最後ぐらい、シリアスに格好良く決めさせないんだ〜〜〜〜!!!」 数瞬後。これまででもっともでかい噴火が、遠くタウンメリアまでも揺らしたという。 |
「で、結局どうなったんですか?」 「どうもこうも……アシュレーったら帰ってくるなり『もう寝る。誰も起こさないで』って。あとで話は聞いたけど……」 「アシュレー、諦め悪いですよね。自分のキャラクター把握してないって言うか」 「そうねえ。前より生き生きしている気がして、いいんだけど、私は」 「あはは〜。惚気られちゃいましたか」 そう言うと茶色の髪の女の子はテーブルの上のヤキソバパンを一つ、ほとんど一瞬で食べてしまった。 かつて、アシュレーと共にARMSの一員であったリルカ・エレニアックである。 今日は久しぶりにタウンメリアに来たのだが、アシュレーはつい昨日、トカとの一悶着があり、今も――もう昼過ぎだが――眠りつづけている。 リルカはもうすぐ十七歳。昔はアシュレーに憧れていたのでマリナのことを好きになれなかったが、今ではすっかり仲良くなっている。だが、未だに色気より食い気らしい。一応、亡き姉を目指しているが、まだまだのようだ。同年代では、テリィと並んでトップクラスの成績を持っているのだが。 「リルカちゃんは恋人とかいないの?」 「いないですよ〜。いいんです。こうやって美味しいヤキソバパンを食べられれば♪」 「私としても、そうやって美味しそうに食べてるのを見ると、作った甲斐があって嬉しいわ」 「えへへ〜」 平和なタウンメリアの昼下がり。 だが、ただ一人だけ、悪夢にうなされるように眠る二児の父が一人。その心は誰にも理解されず、孤独であったトカなかったトカ。 |
投石は不許可です(死) ノリだけで書いてみましたが……やっぱりトカ閣下(笑)のセリフは難しい、というかできないです(汗) それに全部は書けなかったし……というか書いたら偉いことになりますな。ノリだけで書いたので、全体の話の整合性とかそういうのは一切ムシ。ツッコミ不許可(死) 楽しいんですけどね〜(^^; アシュレー、合掌(爆) あと最後のマリナとリルカが実は書いていて楽しかったです。この二人、エンディングの後は仲良くなっているような気がします。というか希望(笑) でもリルカってなんか結局色気より食い気……(笑) アシュレーには年上に対する憧れ、みたいな感じだったと思いますし。テリィでは役不足(断言) ワイルドアームズ2ndでは一番目に好きなんですけどね(^^; ゲーム中ではいい相手はいないなあ。これでリルカがちょ〜〜〜〜っとでもテリィのことを考えてれば違ったんですが……あそこまで見事に眼中にないとねえ(^^; まあいいか。 とりあえず疲れました、やっぱり。トカのセリフを考えたスタッフの方には本当に敬意を表します。そして、あんな素敵なキャラクターをありがとうございました(笑) |