我が悪夢の元凶



警告:まじめな幻水のファンの方がこれ読んで後悔しても、当方は一切の責任を負いかねます(爆)


 すでに兵士はほとんど残っていなかった。駐留軍が野戦で敗れたハイランド軍に残

された兵力はごくわずか。ただこのグリンヒルは周りを深い森に囲まれていて、実質

入ることが出来るのは正面の門だけ。で、ここがやたらに堅牢に出来ているため、普

通の城攻めの常識である四倍の兵力どころか、糧食さえあれば十倍の兵相手にも戦う

ことが出来るのである。

 だから、同盟軍はあえて正面を強行突破して無駄に犠牲を出すことを選ばず、同盟

軍のリーダー以下数人で森の抜け道からグリンヒルに入ってもらって、そこから門を

開けてしまおう、という方法をとることにした。

 案内役はグリンヒルの市長代行であるテレーズ嬢である。外見とは裏腹に、軍を率

いて戦う才に長けていて、今回も弓兵を率いて自ら戦っていた。もっとも彼女が戦場

に立つことに、彼女の守り役のシンは不満がありそうだが、かたや本人は個人の戦闘

能力はともかく、軍を率いて戦う才はそれほどないので今回もあまり出番はない。

 とにかくグリンヒルに数名で突入しようというのだから、それなりのメンバーを選

ぶ必要がある。かくして、同盟軍リーダーであるセリオが選んだのは、星辰剣の使い

手ビクトール、青雷のフリック、当年とって○歳のシエラ、魔力に関しては右に出る

もののいないルック、そしてなぜかついてきている隣の国の英雄であるレイ。それに

テレーズが同行する。

 テレーズ様がいかれるなら私も、と意地を張った約一名がいたが、最近修行をサボ

って――もとい全然パーティーに加えてもらっていなかったのでレベル不足により拒

否されている。テレーズのフォローが果たして彼の心を慰めたかは定かではない。

 いずれにしても突入するメンバーは決まったわけで、さっさとグリンヒルの門の横

の抜け道から入っていく。テレーズがいないとは入れないあたり、何か封印でもされ

ているのだろうか。

 とにかくやたらと無意味に長い森の道を抜け、学院の裏手まで来ることが出来た。

とりあえず学院の中に入ってみると、予想通りシンと静まり返っている。確かに同盟

軍がやってきて郊外で戦争している時に平然と授業していたらそれはそれで怖いと思

うが、だが学舎とはそうあるべきなのかもしれない、と現在の目的とは全く違うとこ

ろでテレーズが悩み始めた。

「あの、とりあえず行きません?」

 フリックの声がなければ、あるいは延々と悩んでいたかもしれない。真面目なのは

悪いことではないが、時と場所を考えてくれ、とはここにいる全員が思った。

 とにかく、と学院を出て街門に向かってみる。途中数部隊の王国軍が襲ってきたが、

そもそもトランの英雄と同盟軍リーダーがその戦列に突っ込むだけであっさりと片が

ついてしまう。一瞬、他のメンバーは一体何しについてきたのだろうか、と悩みたく

なってしまうほどあっさりと終わる。ちなみにグリンヒルの森の道でも同じ光景ばか

りが繰り広げられていたことを追記しておく。

 どうやら王国兵は街門を外から攻撃に対して守るのに必死で、こちらにはほとんど

気付いていないらしい。もっとも何人束になってかかってきても、特に隣の国の英雄

の持つ紋章の前には歯が立たない。全員まとめて生きたままあの世に送ってくれる。

「意外と簡単だな、今回は」

 ビクトールがふっと気を許しかけたところで、テレーズが立ち止まった。

「セリオ様。気をつけてください。何かが、います」

 気が抜けかけていたところだったのだが、さすがに全員歴戦の戦士である。一瞬で

緊張を取り戻した。そして、その一行の前に黒ずくめの鎧を着た男がどこからともな

く姿をあらわす。

「貴様は確か、グリンヒルの守備隊の大将!!」

 フリックが素早く剣を構える。それに、ビクトール、フリック、レイの三人はこの

男と対するのは初めてではない。かつて、トランの解放戦争において、この男はウィ

ンディと共に散々解放軍の前に立ちふさがってくれたのだ。ただ、同時に相当強い。

「お前がセリオ・・・真の紋章を受け継ぐもの・・・」

「真の紋章・・・?あ、あの・・・」

 男――ユーバーはセリオを無視してぼそぼそと呟き始めた。こちらの台詞を無視す

るのは敵の特権なのだろうか、とふと疑問にもなる。確か森に出てきたナントカ族の

女戦士もテレーズが何か言おうとしてるのに自分の都合だけ言って襲いかかってきた。

挙句ボコボコにされてるのだから世話がない。

「我が憎悪の元凶・・・」

「・・・あの・・・」

 一人で役に入ってしまっている黒騎士に、セリオがなおも控えめに声をかける。だ

が、気付いてくれる様子はない。

「我が悪夢の元凶・・・」

「あの・・・。真の紋章が嫌いなの?」

 いきなりそう問われるとは思わなかったのか、ユーバーは台詞を止めて、セリオの

方に向き直る。

「そうだ・・・」

「だったらさ、ぼくの持っている半分だけだよ。それよりここにはもっといっぱいあ

るけど?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 全員、ユーバーが凍るのが一瞬見えた。

 そういえばそうだ。

 ビクトールの持っている星辰剣は真の紋章の一つ、夜の紋章の変化した姿だし、シ

エラはネクロードから奪い取った・・・もとい、取り返した真の紋章の一つ、月の紋

章を持っている。ルックは云わずと知れた真の風の紋章の所有者で、レイは生と死を

司るという真の紋章の中でもトップクラスに危険なソウルイーターの持ち主である。

 大体この場にいるメンバーで、真の紋章を持ってないのは『青雷』という二つ名を

持つフリックだけだ。その二つ名のわりに、実は一番貧弱なのかもしれない。ふとそ

の事実に気付いてしまったフリックは「なんか俺だけ・・・」と呟いたが、あとでテ

レーズに「私もいたのに」といわれて弁明しているところにさらにニナが現れて大変

な目にあうのだが、それは後日談である。

 ともあれユーバーはしげしげと一行を見渡した。確かに真の紋章が五つ。セリオ一

人を狙ってきたけど、よく考えたらセリオの紋章は『はじまりの紋章』の片割れ。い

わば半分。しかしここには完全な真の紋章が四つもある。

 当然だけど真の紋章の力は普通の紋章の比ではない。自分も一個持っているけど、

正直これだけの真の紋章に対抗する自信なんてどこにもない。というかソウルイータ

ーが特にヤバイ。あれの力は三年前に思い知っている。それだけならともかく、他に

もこれだけ真の紋章があると、シャレにならない。

「・・・我が眷属よ、出でよ!!」

 なかばヤケクソ。とにかく時間稼ぎにとボーンドラゴンを召還した。かなり強い部

類の怪物だ。もっともこの間に時間稼ぎを・・・などと考える時点で敗北は決まって

いる。はっきり言って彼らに暴れる場所を提供しただけだ。

 ユーバーが逃げるための魔法を紡いでいる間に、一応ボーンドラゴンは健気にも時

間稼ぎをしてくれている。けど、真の紋章五つも相手にしてそんなに持つわけなかっ

た。

「ソウルイーターよ、汝の法をもってかの者を裁け!!」

 ちゅっど〜ん・・・・・・・・・・・・

 最後は豪快にソウルイーターの最大魔法が炸裂して、ボーンドラゴンは哀れ消し炭

と化してしまった。闇の属性を持つ攻撃には強いはずのボーンドラゴンだけど、そも

そもの破壊力が違うとこんなものらしい。

「さてと。ぼくたち相手にどうするのかな?」

 ルックが愉悦の表情を――あれは視線だけで殺すつもりだったに違いない、とは後

のフリックの言葉――浮かべながら真の風の紋章を輝かせる。

「そうじゃのう。わらわも久々にこの月の紋章の力を使わぬと、使い方を忘れてしま

いそうじゃし」

 シエラの月の紋章がやはり光を増す。

「おい、星辰剣。今回は遠慮しないで行こうぜ」

「そのつもりだ」

 星辰剣も鈍く光る。はっきりいってビクトールと星辰剣の息が合っているのって初

めてじゃないだろうか、とは本人達以外の全員が思ったが誰も口には出さなかった。

「そうだね・・・ぼくもこの力を使うのは気は進まないけど・・・君は確かテッドの

村を焼いてくれた人だよね・・・」

 レイの目に危険な光が宿っているのを、全員が見た。はっきりいって、ルカ・ブラ

イトと戦った時より怖い。なんせ相手は一撃で命そのものを奪ってくれる紋章を宿し

ていて、しかも本人の武力も実はやたらと高い。三年間釣りだけして過ごしていたと

は到底思えないほどだ。

「さてと。ユーバーさん・・・だっけ?どうするの?」

 セリオが満面の笑みを浮かべて問い掛ける。ただその場にいる全員が、その笑顔に

隠された猛毒を見て取った。もっとも、一軍の将たるもの、やはりこの程度の毒を含

んだ笑顔は必須なのかもしれない。ただし、ここに親友と義姉がいたらさぞ嘆くだろ

う。それでいて多分本人は自然にやっているから、なおさらたちが悪い。その恐ろし

さは作った笑顔の比ではない。

「・・・我が力、いまだ足りぬか・・・セリオ達よ・・・真の紋章を受け継ぐもの達

よ・・・戦いの火を消すのはた易くはないぞ・・・」

 ここまできて、まだキャラクターを崩さないのは、いっそ見上げたものだ。けど、

だからといって賞賛したくはなってもそれで手を抜いては、演者に悪い。いや、向こ

うは手を抜いてもらいたいのだろうけど。といっても、少し感心してしまう。ところ

が、これがユーバーの狙いだったのだ。

 これらは実は、ユーバーの計算され尽くした行動だった。およそ悪知恵においては、

今回のメンバーはユーバーに及ばなかったのである。多分シュウがいたら見抜いただ

ろう。

 とにかく彼は、最初から逃げの一手のみを打つことにしてたのだ。

 彼は、全く動揺してないように見せて、ほんの一瞬でも一行の動きを止めればよか

った。幸い、ボーンドラゴンとの騒ぎの間に、逃げるための準備は大体出来上がって

いたし。

「ふ・・・また会おう!!」

 声高に、しかもなぜか勝ち誇った声でユーバーは消えてしまった。全員、まさかあ

んな余裕かました態度をとって逃げるとは思っていなかったので、呆気にとられてし

まう。で、少し遅れてから悔しがっていた。この場合、悔しがっている理由はユーバ

ーを逃したからではなく、暴れる場所を失ったことに対してであることは、誰の目に

も明らかだった。

「あ、あの、皆さん。とにかくグリンヒルは解放できたのですし・・・」

 ユーバーが逃げた時、すでに王国兵は軒並み降伏していたから、実は外からでも侵

入は簡単になっていた。ボーンドラゴン相手に展開された真の紋章の暴れっぷりにみ

んな恐れをなして逃げてしまったのだ。ただ、外の軍はてっきり中に侵入した一行が

開けてくれると思ったので、ぼうっと見ていたのである。

「テレーズさん、とりあえず、門を開けましょうか」

 フリックが力なく歩き出した。一人、真の紋章を持っていなかったので別に悔しが

ることはないので、一人まっとうな判断が出来たのである。

「真の紋章って・・・ないほうが絶対平和だな。ユーバーの気持ち、わからなくもな

いかもな・・・」

 フリックの呟きは、幸いにも他の五人には聞こえていなかった。

 

 それから数日。ユーバーは真の紋章に襲われる夢を見続けたという。文字通り、彼

にとって真の紋章は悪夢の源となったわけである。





 まず懺悔、と。え〜と・・・フリックファン、ビクトールファン、坊ちゃんファン、主人公ファン、シエラファン、星辰剣ファン(いるのか?!)、ルックファン、ユーバーファン、テレーズファン、シンファンの各皆様方に。土下座!!m(_ _)m
 いや、唐突に思いついたんですよ〜。だってユーバーってなんか真の紋章が嫌いだったみたいだけど、私ゲームでこの話のメンバーではシエラがいないだけ・・・。なのに半分の『輝く盾』になんかこだわってるし。というわけでこんなおばかを・・・。思わず思いついちゃったんですよ〜。ちなみにこれの所要時間二時間弱・・・。ああっ、ものを投げないで〜〜〜。ごめんなさい〜〜〜〜(脱兎)

――間――

ボコバキゲシドカ!!

・・・遥か彼方で死亡中・・・ち〜〜〜〜〜ん・・・・・・・・



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