手にかかる重さが不意に消えた時、サガは意外とは思わなかった。むしろ、やはり、と。 数千年以上にわたる冥界を統べるハーデスと、地上を預かるアテナとの戦い。しかしこれまで、冥界を攻撃する術がなかったがゆえに、アテナと聖闘士達の戦いは常に防戦一方であった。それが、ついに逆転する時が来たのだ。 やはりこの方は、それらすべてを承知の上だったのだ、と改めて実感した。よくも、かつてこの人――いや、神を殺そうなどと考えたものだ、と自分で苦笑する。 『(お前がその罪を贖いたいと考えているなら、その機会をやろう)』 あの時、己が罰にその身を焼いていた自分の前に突然現れた男は、いきなり心にそう語りかけてきた。しかも、声に響いたのは別の言葉。 『死の苦痛から、永久に解き放たれたいとは思わんか、サガよ』 最初、ひどく驚いたものだ。その人物は、間違いなく自分が殺したはずの人物だったはずなのに。 『来るか?』 流れ込んでくる、彼の壮絶な覚悟。 こんな自分でも、まだアテナのために、地上のために何かをすることが出来るという。 それに対して、自分は迷うべき何物ももたなかった。 『(そのためには、かつての同胞すらその手にかける。その覚悟があるなら、来い)』 『かつてお前達を葬るのに協力した者に復讐するチャンスでもある、と言っておこう』 思わず、腹話術めいたその意思と言葉には失笑を隠しえない。しかしそれも、彼の後ろに控える冥闘士には、別の意味の笑みに見えたのか。満足そうな――しかしどこか蔑む様な――笑みを浮かべていた。 『いいだろう』 承諾の返事。 たとえ同胞に手をかけたとしても。たとえ未来永劫聖闘士としての証を剥奪されようとも。 罪深きこの身が、地上の平和を守るために役立つというのなら。 まして、この人物――前教皇の元で戦えるというのなら。 『来るがいい、サガ』 そして始まった聖戦。 シャカとの、そしてその後の激闘。そして、アテナの死。 アテナは、すべてを承諾の上で、自ら死を選ばれた。あの時、あの場所で死されたのは、あるいはその血が持つ意味を、漠然と悟っていたからなのかもしれない。 おそらく自分達は、たとえこの先の目論見が上手くいったとしても、現世に留まり続けることはありえないだろう。神々の力を、サガは過小評価はしていない。 だが、必ずアテナが、そして他の聖闘士達が、自分達が導いた標を辿ってくれる。それだけは、信じれる。 テレポーテーションから抜けた時、目の前には闇夜にその威容を見せるハーデス城が聳え立っていた。 すぐに伝令が来て、サガ達を確認すると、即座に城内に戻っていく。程なくして、パンドラ自ら面会する、ということで城内に案内された。言葉もなく、すぐ横を歩くカミュとシュラを確認する。彼らは小さく頷いただけだったが、それで十分だ。 自分達の目論見が失敗したとしても、あのあとに真実を語っておいたアイオリア達がすぐにここに来てくれるはずだ。それに―― ふと、あの十二宮の戦いの最後が思い出された。 実力が圧倒的に違い、幾度も殺したと思ったペガサスの聖闘士。だが、彼は幾度でも立ち上がり、そして最後には黄金聖闘士と同等の力を発揮し、アテナを救ってみせた。過剰な期待はするべきではない。だが、彼や彼の仲間達なら、この戦いに決着をつけてくれる。そんな気がした。 (確か、星矢といったか、あのペガサスの聖闘士は――) かつて自分が聖衣を授けた聖闘士。あの時のことは、今でもよく覚えている。だが、あのような形で自分と戦うとは、当時は夢にも思わなかったし、また、彼があれほどの聖闘士に成長するとも、思いもしなかった。常にアテナの傍らにいた聖闘士。そしてきっと、彼はこの戦いでもアテナを助けてくれるだろう。 もしかしたら、自分の最大の功績は、あの星矢を聖闘士にしたことかもしれない。そしてそれは、星矢の仲間である氷河を育てたカミュ、紫龍に更なる力を授けたシュラにしても同じだろう。自分の意思や力を継いでくれる者がいることが、これほど安心できるものだとは知らなかった。 いくつかの廊下を抜け、ハーデス城の最上階に至る。 「さすがはかつて最強を謳われた黄金聖闘士。よくぞ十二時間以内にアテナの屍を抱いて来たものよ」 パンドラの声が響いた。といっても今のサガには、すでに声自体は聞こえはしないが、さすがにパンドラほどの者になると、声と共に意思を投げてきている。会話に不自由はなさそうだ。 (その前に……) まあそう上手くいくことはないだろう。 おそらく、我々はここで消滅する。 その覚悟は出来ていた。 だがそれでも、自分達が犬死だとは思ってないない。 自分達の意思は、他の黄金聖闘士が、弟カノンが、そしてあの星矢達が引き継いでくれる。それはもう、確信に近い。 弟カノンが、自分の双子座の聖衣を継いでくれたこともまた、サガにとっては嬉しいことだった。きっとこの戦いで、カノンは双子座の聖闘士として、存分に戦ってくれるだろう。 (そして必ず、地上に平和を――) たとえ誰に誇れなかったとしても。 サガは、最後まで自分が聖闘士であったことを、誇りに思っていた。 |
今度はサガのお話。ちなみにリクエストによって書かれてたり……デスマスクの話を読んで、サガはどうしたのかな、ということでしたが……あっさりまとまっちゃって、あまりの短さに色々つけちゃいました(爆)。いや、ゆ〜っくり考えたら、サガからしてみたら自分の罪を償う可能性があるのなら、もう喜んで、ということでしょう。しかもシオンの元で戦えるというのですから。というわけでこんな話に……。作品の隙間ですらないですね、これ(爆) ちなみにサガは大好きです。ギャラクシアンエクスプロージョンはもう最高(w。黄金聖闘士の中では実は一番好きかもしれません。とにかくかっこいいから(w。ふっ。所詮見た目と態度のかっこよさに私は弱いのさっ(オイ) にしても彼ら、四感失ってるのにコミュニケーションに不自由してないよな……さすがは聖闘士(違) とりあえず一人一作、さて次は誰にしようかな〜と(^^; なお、リクエストされたらは受け付ける『かも』しれません(笑) |