「なるほど。たいした力だ。お前が慕われる理由は、分からなくはない……が。上には上がいることを知っておくのだったな」 金色の光を放つ聖衣を身にまとった男が、自分の足元に倒れた男を見下ろしていた。灼熱の砂浜で、水など一瞬で蒸発してしまうかのような熱さだが、それでもなお、血が固まるよりも早く血が流れ出している。そして、その倒れた男の身にまとう聖衣は、本来は白銀の輝きを放つものであったはずだが、ボロボロにひび割れ、砕け、すでにその本来の輝きを完全に失っていた。 「ま、まさか黄金聖闘士が来るとは……」 しゃべるその一言ごとに、口から血があふれ出す。 「並の相手なら、ただ緩慢に訪れる死を受け入れるだけで終わるはずなのだがな……さすがは、聖域にまで名の聞こえたケフェウスのダイダロス、と褒めてはおこう。この魚座(ピスケス)のアフロディーテが派遣されるだけのことはある」 実際、ダイダロスの力は、黄金聖闘士たるアフロディーテの予想を遥かに超えるものだった。わざわざ、教皇が黄金聖闘士の自分に成敗するように命じられた理由は、今なら分かる。おそらく、聖域にいる白銀聖闘士では到底相手は務まりはしないだろう。 「くっ……」 しかし、いかに強大な力を持とうと、白銀聖闘士と黄金聖闘士の間には、想像を絶する隔たりがある。その力の差は、大人と子供、等というもので表せるものですらない。 「なぜいつまでも教皇の招集に応じなかった、ダイダロス」 「し……知れたこと。聖闘士はアテナのため、地上の平和のためにこそその力を振るうべきものであるはず……だが、今の教皇は……」 「くだらん」 こいつも、同じか。 これまで幾人か、似たような戯言を言った者を、アフロディーテは知っている。所詮こいつも同じだったか、と酷く興が殺げた。 「所詮お前も弱者か。死の間際のお前に言ったところで仕方がないが、強者こそ世界を動かす。そして教皇は、間違いなく世界を動かしうる強者だ。お前達弱者は、ただその力を妬み、ひがみ、そしてアテナなどという存在に頼る。所詮お前はその程度の者なのだ」 そうだ。 アテナが何をしてくれた。もしアテナに力があるというのなら、今すぐこの地上を狙う脅威を、すべて排除して見せるがいい。 「くっくくく……」 「何がおかしい」 突然笑い出したダイダロスは、アフロディーテには酷く不愉快に思えた。自分が笑われたわけではないのに、一瞬こちらの心底を見透かされたように感じられたからかもしれない。 「力が正義……か。強大なる黄金聖闘士よ。ならば、お前が信じる力以上の存在が現れたとしたら、どうするのだ?」 この言葉は予期していなかった。一瞬、どう答えたものか、と逡巡しているうちに、ダイダロスがさらに口を開く。 「このアンドロメダ島でもっとも強大な者は、私ではない……だが……ぐっ、彼、なら……」 ダイダロスの言葉が切れると同時に、その小宇宙が完全に消え失せた。 「……死んだか。ふん。この島にお前以上の者がいるだと? そんなのがいて、気付かぬ私だと思うのか」 実際この島には数人の聖闘士と聖闘士候補生がいる。だが、いずれの小宇宙も、自分は愚か白銀聖闘士すら脅かしうるものでもない。わざわざ自分が手を下す必要すらない輩ばかりである。 「さて、聖域に戻……」 その時不意に、ケフェウスの聖衣がパキ、と音を立てて崩れた。 別に、聖衣が破損しているのはおかしなことではない。黄金聖闘士の攻撃を受けて、白銀聖衣程度が無事であるはずはないのだ。だが、その砕け方が今思うとあまりにもあっけなさ過ぎる気がした。 白銀聖闘士というのは、実は力の差がかなりある。そして、聖衣とはその纏う者の力によって、当然その強度なども飛躍的に変化する。だが、ケフェウス座の聖衣は、ダイダロスの実力の割には、あまりにもあっさりと破壊され過ぎた。いくらなんでも、もろすぎる。そう。すでに一度、破壊しつくされたかのように。 だが、相手の聖衣を砕く、というのは、相当の実力がなければできることではない。少なくとも、相手と同等以上の力を必要とする。 もしケフェウス座の聖衣がすでに砕かれていたとしたら、それは、ダイダロスが今際の際に言ったように、このアンドロメダ島にダイダロスと同等以上の聖闘士がいる……あるいは、いた、ということなのか。 「……馬鹿馬鹿しい。仮にそのような者がいたとして、もしその者に私が破れるようなことがあれば、その時はその『力』に従うだけだ。もしいれば、だがな」 アフロディーテは踵を返すと、恐れ戦き遠巻きに自分を観察している弱者を一瞥し、そして聖域に戻っていった。 |
星矢たち青銅聖闘士達が十二宮を訪れる、一週間ほど前の出来事である。 |
第五弾、アフロディーテ……もとい、『魚』です(笑) アフロディーテもシュラもデスマスクも、実はあまりにも分かりやすい理論の中に生きているんだよなあ、とか思って。で、なんとなくダイダロス先生とアフロディーテの勝負の最後に、こんなやり取りもしかしたらあったかもなあ、ということで。とりあえずダイダロス先生は相当強いことにしちゃいました。いや、まあ実際わざわざ黄金聖闘士が派遣されるってことは、少なくとも白銀聖闘士じゃ手に負えない、と判断されたんだろうし。まあアフロディーテの敵じゃないですが……影の功労賞は瞬ってことで(マテ)。だってあの粉々に破壊された聖衣、まあその内ある程度は自己修復するとしても、あそこまでボロボロにされちゃうと完全に直るはずないし〜(爆) というわけでダイダロス先生があっさり負けたのは瞬のせいです(マテ)。幸いなのは、彼がこの事実を一生知ることがなかったことでしょうね(爆) アフロディーテもシオン呼びかけ編やろうかとも思ったんですが、同じネタはそろそろ限界だろうし……。こう二人が続くと、黄金聖闘士力の信奉者トリオ(マテ)の最後の一人山羊……もとい、シュラの話も……と行きたいのですが、彼は難しすぎ……。とにかくエピソードが少ないんですよ。はてさてどうしたものだかねえ。 ただこの話書きつつ……なんとなく過去に何かあったのかも、とか思ったりもして。……捏造でもしてみようかなあ(爆) にしてもこの対決……日焼けしそうだよね……だってどーかんがえても灼熱のアンドロメダ島でやったんでしょう? しかも炎天下で……。 |