光の言葉




 何も見えない暗闇に届いた、かすかな言葉。
 でもそれは、私にとって何よりも大切な輝きを持った言葉だった。
 そしてその言葉が、私を闇から引き上げてくれたのだ。

「何度見てもホントにすっごい大きいね〜」
 ぽけーっと大口を開けて、その巨大な建造物を見上げたのは、白い神服に身を包んだ少女――コレットだ。
 そして目の前には、巨大な金属と石で作られた橋。分裂していた二つの世界の一つ、テセアラの大陸を結ぶグランテセアラブリッジである。
 クルシスの消滅によって、世界は本来の姿を取り戻した。
 といっても実に四千年ぶりのことであり、すでにその時代の記憶を持つ者は、地上にはほとんどいない。いわば、世界中の人間が新たな世界に投げ出されてしまったようなものである。当然だが、世界中が極端に混乱してしまっていた。
 地形すら、大幅に変わってしまっている。崩壊した街がなかったのは、奇跡といっていいかもしれない。
 しかして……その後の世界のことを考える役目は、彼らにはない。それらを担うのはメルトキオの王家であり、あるいはマーテル教会であり、そして神子の一族なのだろう――が。そのうちの一人であるマナの神子コレットは、それらの役割は担っていない。
 彼女は、エターナルソードを得たロイドと共に、世界中のエクスフィアを回収する旅に出たのである。
 そしてその二人が最初に目指したのが、このグランテセアラブリッジだった。
「この大きさで跳ね橋だもんな。まあ……その動かす機構の元が……」
「エクスフィア、なんだよね」
 このグランテセアラブリッジは、実に三千個という莫大な数のエクスフィアで動いている。
 エクスフィアは、繁栄世界と呼ばれていたテセアラではそれほど珍しい存在ではない。
 エクスフィアはそれを装備した人間の能力を大幅に向上する力を持つが、実は機械につけてもその力を引き出せる。それを利用した機械が、テセアラでは普及し始めていたところなのだ。
 ただ、幸いなことに、その機械の研究開発をしていたのは、主にレザレノコーポレーション――つまり、ロイド達の仲間であるリーガルの会社だ。すでにリーガルはエクスフィア回収に同意しており、それらの機械の開発・生産は止めている。そして、このグランテセアラブリッジのエクスフィアの回収も、リーガルが国王に掛け合って了承をもらってくれた。
 今回、ロイドとコレットがここに来たのは、その回収を見届けるためである。
「けど、エクスフィアはずしちゃったら、この跳ね橋って動くの?」
「そりゃ無理だろ。ただ、別に動かなくても問題ないって説得したみたいだしな」
「ふーん」
 回収は数日かけて行われ、そのためのベースも設けられた。ベース設置は今日で終わり、明日から回収作業が始まることになっている。
 ロイドとコレットは、リーガルの配慮でそのベース内に滞在することになっていた。
 強い風が吹き抜けて、二人は思わず身震いした。
 その感覚が、コレットには心地よく、そして嬉しくもある。
 シルヴァラントで、徐々に天使化していく中で失っていった感覚は、今は完全に元に戻っている。それが、嬉しい。
「寒くなってきたな。もう日も暮れるし、戻ろうか」
 そういって、ロイドは何気なく手を差し出してきた。
「うんっ」
 コレットは迷わずその手を取り、二人は薄暮に包まれた中を歩いていった。

 日が完全に落ち、ベースは静寂に包まれていた。みな、明日からの作業に備えて休んでいるのだろう。
 外に明かりはないのだが、今夜は二つの月――後にシルヴァラントとテセアラと呼ばれる――が共に満月であり、空も晴れ渡っているため、天気が悪い昼間よりむしろ明るいくらいだ。部屋にも差し込んでくるその優しい光は、むしろ明かりをつけることをもったいないと思わせるほどに、美しく感じられた。
 月明かりは海に映じて、そして巨大な橋を浮かび上がらせている。
「あそこ……私、二回渡ったんだよね。あの時に」
「あの時……ああ、そうだな」
 世界再生の封印を次々と解いていき、コレットは一度心を失った。正しくは、心が封じられていただけではあったのだが、それでも、異世界テセアラに来てしばらく、コレットはただ動くだけの人形に等しかった。
「あの間のこと、覚えているんだ」
「うん。はっきりしないけど。でも、ロイドがこれくれた時は、ホントに嬉しかったよ」
 コレットはそう言うと、首の飾りに触れる。
 ロイドが贈ったコレットの誕生日プレゼントであり、そして、コレットにあるクルシスの輝石を制御している『要の紋』の役目も果たしている首飾りだ。
 実際にはすでに取り外す方法も分かっているので、いつでも外すことは出来る。ただ、まだ世界には魔獣が徘徊し、決して安全とはいえない。そのために、二人とも旅の終わりまではエクスフィアを装備し続けることにしている。
「あとね。あの時のことも、よっく覚えているよ。っていうか……私の心が閉じ込められてから、最初に聞こえた言葉って、あれだったんだもん」
「あの時?」
 ロイドは首を傾げる。
「ほら、多分……テセアラに来てすぐ、だと思うけど。ロイド、私にとっても大切なこと、言ってくれたから」
「大切な……こと?」
「うん」
「……?」
 ロイドは首を傾げて考え込む。
 テセアラに来てから、ロイドは何回かコレットに話しかけてはいたが、コレットは一度も反応を返さなかった。ただ、その時の会話など、普段と変わらない他愛ないものばかり……。
「ああっ!!」
 そういえば、一度だけ普段なら絶対言わないことを言った。
 ジーニアスにけしかけられて。
「あ、あ、あれは、その……ジーニアスがそう言えって言うから……」
 ここにジーニアスかリフィルあたりがいたら、何をいまさら言ってるんだ、くらいのツッコミがあるところだ。
「じゃあ……うそ?」
 コレットが顔を伏せる。
「あ、いや、そういうわけじゃなくてっ」
「なんてね」
 いきなりコレットは笑い出す。それを見て、ロイドはからかわれた事に気がついた。
「コレット、てめえっ」
 手を振り上げたロイドを、しかしコレットは気付いていないのかそのまま外へと視線をずらす。
「でもね……嬉しかったのはホントだよ。というより……あの言葉のおかげで、私は私でいられたから」
「え……?」
「救いの塔で天使になっちゃったときね。私、ホントに何も感じなくなったの。なんか真っ暗な中に落ちちゃった感じで。周りに何にもなくて。何にも見えなくて」
「コレット……」
「これが死ぬってことなのかなって。そんな風に思ったら真っ暗なことすら分からなくなっちゃって。このまま消えちゃうのかなって思った……と思う。よく覚えてないの。でも、その時ロイドの声が聴こえただよ」
「俺……の?」
 コレットは嬉しそうにうなづく。
「うん。ロイドのあの言葉。それがすっごい嬉しくて、そしたら暗闇が一気に光に包まれたの。体はそれでも自由にならなかったけど……でも、外が見えたの。ロイドも、ジーニアスも。そしてその時分かったの。私はまだ消えちゃったりしてないんだって。それまで、私はもうとっくに消えちゃってたと思ってたから」
 そしてコレットは、首にあるクルシスの輝石と、ロイドが作った首飾りに触れる。
「それでね。ずっと返事しなくちゃって。だけどどうしても動けなくて。それに、これをロイドがつけてくれた時、ホントにお礼言いたかったんだけど。あの時はどんなにがんばってもそれが出来なかった。だから悔しくて、私、ずっとずっとロイドにお礼言わなきゃって。それだけ考えてたら……」
「あのタイミングで元に戻ったってわけだ」
「うんっ」
 まさに絶体絶命の時に、コレットは唐突に元に戻った。あまりにも出来すぎたタイミングだったが、あの旅での数々の奇跡に比べたら、あれもそのうちの一つでしかないかもしれない。
「で、ね。お礼は言ったけど、返事はまだだったよね」
「え」
 ロイドが反射的に身構えようとするが、コレットは素早くその『内側』に踏み込んできた。
「私も、ロイドが好きだよ。これまでも、今も、そしてこれからも、ずっと」
「コレット……」
 コレットはそのままロイドに体を預けるように倒れこみ、ロイドはそれを抱きしめた。コレットも、ロイドの背に手を回す。
 前に、世界再生の旅の途中でも、マナの塔の封印を解いた後に抱きしめてもらったが、あの時はすでに感覚がなかった。
 しかし今は、ロイドのぬくもりが感じられる。それが、コレットにはとても嬉しい。
「これからも、長い旅になるけど……一緒にがんばろうな」
 それはロイドなりの照れ隠しなのだろう。
「だいじょぶだよ。きっと。なんたって世界統合の勇者様が一緒だもん」
「世界統合の神子さまも、な」
 二人は笑い、それからお互いを抱(いだ)く手に力を込める。
 窓から見える月は、いつまでもやさしい光を地上に投げかけていた。



 はい。まあ、あれだけシンフォニアにハマっているのを見れば、私を知る人間ならいつか書くだろう、と予想されていたかと思います(自爆)。シンフォニアのメインカップル(と断言していいと思われる)であるロイドとコレットの話です。ゲーム始める前からコレットが一番のお気に入りキャラになるのは分かってましたが……予想通りでした。まあ実はこの予想は外れることが多いんですが(幻水とかがいい例)、今回は完全に予想通り。……二番目がクラトスなのは予想外でしたが(笑)
 で、これはゲームクリア後の話です。始めは作中にしようかと思ったのですが、こういう風に二人きりでゆっくり話せる状況というと、作中ではフラノールとヘイムダールのあのイベントだけで、はっきり言って割り込ませるのは無理。なら適当な場所に……とも思ったのですが、いっそこっちの方がいいかと思いまして。
 コレットの言っているロイドの台詞ってのは、スキット『ロイド、告白してみる』(011)です。コレットが元に戻ったとき、どうやらコレットは少なくとも首飾りをつけてもらった時には外部を知覚していたようですから、ならこのロイドの告白も聞いてるかなあ、と思いまして。で、スキットでそれに関するのないかな、と期待してたのですが……ないっぽく(涙)。そういうわけで書いたものです。ま、細かいツッコミはなしの方向で。
 ロイドとコレットのカップリングはとにかくかわいくて好きです。多分この組み合わせ以外はやりそうに……ないな。あのフラノールのイベント、もらえるアイテムが違うパターンが他がゼロスとクラトスってのは、狙われている気がするんですが……(笑)。他ではジーニアスとプレセアも可愛いし、ゼロスとしいなも気になりますよね。EDではプレセアはリーガルと一緒にいたけど……恋愛感情とかは関係なさそうだし、あそこは。ジーニアスの今後に期待でしょうか。そのうち書いてみるか(笑)
 シンフォニアはネタが色々あるのでイロイロ書いてみたいですね。上記のジーニアス、プレセアとかゼロス、しいな以外にもクラトスも書きたい……久しぶりに書いてみたいというモードになってますが……ゲームやりたいという欲求がそれを上回ってます(爆)。たまに疲れたときにこれ書きました(マテ)。とりあえず気が向いたら増えると思います(笑)



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