瞳閉じて


 瞳閉じて、感じられる温もり。
 一度は失くしたその感覚が、何よりも心地よい。
 瞳閉じて、そして伝えて。
 貴方がそばにいることを。
 貴方が、私と共にあることを。

「んっ……」
 目を開けたとき、最初に飛び込んできたのは、柔らかな陽の光だった。
 静かな、そして普通の朝。
 ただ、自分の中では――新しい朝だった。
「コレット、起きたのか」
 不寝番をしていたのだろう。双剣を佩いたままのロイドが、小枝を抱えて声をかけてきた。
「うん。おはよ、ロイド」
「よく眠れたか?」
「うんっ」
 コレットは嬉しそうに笑う。
 野宿とはいえ、ちゃんと寝るというのは本当にいつ以来だろう。
 水の封印を解いた時から、眠れなくなっていたから、本当に数ヶ月ぶりのことだ。
「そっか。あ、朝食もうすぐだけど……お腹、すいてるよな?」
 コレットが返事をする前に、コレットのお腹が「くぅ〜」と自己主張した。一瞬の沈黙の後、ロイドが必死に笑いをこらえ、コレットは真っ赤になる。
「しょ、しょーがないもん。久しぶりの食事だったから、全然足りなかったんだもんっ」
 昨日。
 フウジ山岳で、コレットは奇跡的に――ゼロス曰く「愛の力だねえ」――クルシスの輝石の呪縛から解放された。それと同時に、世界再生の旅で失っていった感覚なども、一気に取り戻したらしい。
 そんなわけで、昨夜の夕食はコレットも食べたのだが、ありあわせの材料で作ったため、コレットが嫌いなピーマンが入っていたのである。作ったのはジーニアスだが、コレットのピーマン嫌いが直ったと勘違いしたためのミスだった。
 かつてシルヴァラントで旅をしていた時、確かにコレットはピーマンを食べていたのだが、それは味覚がなくなったが故だったのである。結果、コレットは「にぎゃいよ〜」と言いながら、それでも嬉しそうに食事をしたのだが……やはりピーマンが入っていたためか、それほど食べなかったのかもしれない。
「待ってろ。もうすぐ出来るから」
「あ、手伝うよ、ロイド――ふにゃっ!?」
「コレット!?」
 コレットは立ち上がり、一歩踏み出そうとして、いきなり躓いた。幸い、ロイドが近くにいたので、コレットはロイドに抱きつくような格好で、転倒を免れる。
「お前なあ。相変わらず何もない場所でこけるな……って、大丈夫か? もしかして、また、どっか調子悪かったりしてないか?」
 多分このコレットのドジは、永久に直らないものだろう。直ったらコレットではないという気もする。何しろ、翼があって空が飛べても――さらに飛んでいる状態でも――転ぶというのだから、その徹底振りはすごい。
 ただ、あるいはまた天使疾患が再発した可能性もある。ロイドはそのことに気付いて慌てたが、当のコレットはロイドにしがみついたまま、目を閉じていた。
「コレット?」
「うん。だいじょぶ、だいじょぶだよ。目を閉じてても、ロイドが分かるもの」
「コレット……」
 ロイドは、優しくコレットの髪を梳くように、頭をなでた。
「ん……なんか、気持ちいいな……」
 ぱちぱち、という焚き火の爆ぜる音だけが、静かに響く。
 その心地よい沈黙を破ったのは、いささか申し訳なさそうな、それでいてどこかからかうような二人の親友の声だった。
「あのさ〜。そろそろ朝食にして欲しいんだけど〜。僕もうお腹すいちゃって……」
 いつ起きたのか、ジーニアスがうつぶせに横になったまま、地面に肘をついてニヤニヤしている。たった今起きた、という風ではない。
 直後に一瞬の沈黙。
 その後二人は、顔を真っ赤にしてお互いの距離をおく。
「お、お、おはよ、ジーニアス。ご、ごはん、すぐ作るから」
「わ、わりぃ、コレットが、ちょっとこけたらから大丈夫かと思ってな。まってろ、すぐ用意するから」
 二人とも、弾かれたように食事の準備を始める。
 その背後から聞こえた、何人かの仲間たちの忍び笑いは、二人の耳には届いていなかった。



 シンフォニア創作第四弾。またまたロイコレです。今度は、フウジ山岳でコレットが元に戻った直後の話……というか一発ネタ。
 ちなみにこの話は、珍しくタイトルから考えられています。っていうか、気付く人は気付くでしょうが……ZARDのシングル『瞳閉じて』そのままです。なのでBGM自動決定(笑)。歌詞の中で『瞳閉じて 二人つながってる事を 私に 伝えてほしい』というのがありまして。これがそのまま内容に落とされているとも言います(^^;
 そういえば集英社のシンフォニアの小説版で、コレットが第三の封印で失っているのは『感覚』なんですが、それが『触覚』全てをうしなった、となってましたが……いくらなんでもそれはないのでは……。あれが天使化ゆえだとすると、食事しなくなる、眠らなくなるは分かります。声を失うのは……あれは多分マーテル化のためで、天使化じゃないと私は思ってます。実際、天使はしゃべるし。ただ、痛覚やら暑さ寒さを感じる感覚は、ないほうが『兵器』としては強いんですよね。でも。『触覚』がなくなるのはヤバイでしょう。だってモノを持ってるのも分からない、そもそも地面に足がついているのかも分からない(三半規管は生きてるでしょうから上下は分かるでしょうが)とあっては……そもそも戦うことすら出来ませんよ。なので、あの『何も感じなくなった』は『痛み』じゃないかと思ってます。多分寒さ暑さは、それ以前のスキットですでに感じなくなっているっぽいのがありますからね。
 とにかくロイコレは可愛くて可愛くて……全ゲーム中でもトップクラスに好きな組み合わせになりつつ……というかなってるよな、すでに(笑)



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