誕生日


「う〜〜〜〜〜〜ん」
 ロイドは悩んでいた。
 ここはフラノールの宿の一室。普段ならコレットが一緒にいるのだが、コレットは久しぶりにこの街で待ち合わせて会ったしいなと街に出ている。
「忘れてたわけじゃ……ないんだけど……」
 しかし、日々の忙しさで、すっかり意識の外にあったのは確かだ。
 今日が、コレットの十七歳の誕生日だったということを。
「あれからもう一年なのか……」
 十六歳の誕生日の日。コレットは、再生の神子として神託を受けた。
 そして、文字通り死への旅が始まった。
 それから、もう一年。
 旅は、最初にロイドやコレットが予想もしなかった――できるはずもなかった――形で終わり、今、ロイドはコレット共に旅を続けている。
 今の旅の目的は、全てのエクスフィアの回収。
 いつ終わるとも知れない旅ではあるが、それでもお互いがいるからこそやれる――そう思っている。
 無論、旅は順風満帆とは行かない。
 エクスフィアの恩恵にあずかっているテセアラの人々は、エクスフィアを放棄することに対して、強い抵抗を示す。一度手に入れた利便性を、そう簡単に放棄することの出来る者など、滅多にいるものではない。
 とりあえず、エクスフィアを、先に起きた混乱――デリス・カーラーンの現出――と救いの塔の崩壊の原因として、いわばエクスフィアに悪役を押し付けることで回収を行っている。真実は明かせたものではないからだ。
「でも、忘れてたのは迂闊すぎるよなあ……」
 むしろよく思い出したと思う。
 去年は――だいぶ遅れたが、首飾りを贈った。もっとも、アレはプレゼントではあったが、同時に必要に迫られてのものだったし、コレットは喜んでくれていたが、やはり誕生日プレゼントは誕生日にもらってこそ、だろう。
 だから、次こそは、とあの時は思っていたのだが……。
 すっかり忘れてしまっていたのである。
 今から得意の細工物を作ろうとしても、さすがに間に合わない。それに、道具もほとんどない。
 これで自分の家なら、せめてパーティーをやったりも出来るのだが、旅先ではそうもいかない。
 コレットも何も言わないので、あるいは本人も忘れているのだろうか、とも思うが、かといって自分がそれを無視していい理由にはならない。
「くっそ〜。どうしたらいいんだ……」
 結局ロイドは何のアイデアも出ないまま、時間だけが過ぎていった。

「ロイド、ちょっと外でない?」
 何の考えも出ないまま、部屋で思考の迷路をさまよっていたロイドは、夜になっていることにすら気付いていなかった。
「あ、ああ」
「あのね。白夜っていうの。明るいんだよ」
「は?」
 意味が分からず、ロイドは首を傾げた。
「あのね。もう夜なんだけど、外が明るいの。何でも、夏の間だけ見られる明るい夜なんだって」
「これで夏!?」
 どちらかというとロイドにはそちらの方が驚きだった。だが、コレットは気にした様子はない。
「セルシウスさんって、すごいね〜」
 果たしてそれが関係あるのかどうか。
 確かに、イフリートの封印されている付近は逆に冬だろうが夏だろうが灼熱の砂漠ではあったが、それと『白夜』は関係あるのだろうか。
「とにかく、ね。すごい街がきれいだから、ね?」
「あ、お、おう」
 ロイドはコレットに腕を引っ張られて外に出た。
「へぇ……」
 確かに、夜中とは思えないほどに明るい。
 フラノールとしては非常に珍しく、雲ひとつない空が広がっている。
 本来は夜の深い紺色が広がっているはずだが、今見えるのは濃い青と紺色を混ぜたような色。なんともいえない不思議な色だ。そして、南の空に向かうほど、その色は青に近付いて行く。
 空の暗い場所は星がはっきりと見えるが、南に目を移すほどにそれが徐々に減っていくその光景は、まるで朝の瞬間をそのまま空にとどめたようでもある。
 それはある種幻想的な、不思議な光景だった。
「久しぶりだよね、ここに来るの」
「そうだな……確かに」
 今いるのは、フラノールの街を見渡せる、マーテル教会の前の見晴台だ。
 かつてフラノールに来た時、アルテスタを医者に診せるために来て、そしてロイドはここでクルシスとの戦いを決意した。
「あの時は、ホントに大変な時だったけど、今、世界が平和になってから来ると、また違って見えるよね」
 かつても今も、フラノールの街は雪化粧の中にひっそりと、暖かな光をいくつかともしてそこにいる。
 ただあの時は、クルシスが無機生命体の千年王国という、途方もない計画が進行している最中だった。無論、街の人々にとっては、あの時と今は、なんら変わるものではないだろう。だが、ロイドたちは知っている。
 彼らの享受している平和は、かつて二人がここから街を見下ろした時とは異なり、本当に安心してすごしていける平和であることを。
「ああ……」
 生返事を返したロイドは、街の時計台を見て、もう今日がほとんど残っていないことに気が付いた。
 確か一年前も、結局こんなことになって謝った記憶がある。
 自分の進歩のなさに、さすがに少しあきれてしまう。
「あ、あのさ、コレット……」
「ん? なに?」
 コレットは街と空に見とれていたのか、ロイドの様子には気付いた様子はまるでない。
「その……ごめん、俺、また間に合わなかった」
「え?」
「いや、だからお前の誕生日プレゼント……ホントに、ごめん」
 その言葉に、コレットは落胆ではなくむしろ驚いて目を見開いていた。
「ロイド……覚えていてくれたんだ……嬉しい……」
「い、いや、思い出したの今朝だったし、その、何にも準備できてなくて……」
 コレットはぶんぶんと横に首を振る。
 そしてそれをとめると、いつものように胸の前に手を合わせ、そして嬉しそうに微笑んだ。
「そんなことない。ロイドが覚えてくれていたってだけで、私、嬉しいの」
「でも……」
「だったら、一年前と同じお願いしていい? ロイド」
「一年前……?」
 あの、旅立ちの前日。
 あの時のことは、もちろんロイドも良く覚えている。
「ああ、分かった。……十七歳の誕生日、おめでとう、コレット」
「うんっ。ありがと、ロイド」
 コレットは、満面の笑みを浮かべ、それから、空を見上げた。
「一年前ね」
「え?」
「一年前、ロイドに『おめでとう』って言ってもらえた時、嬉しかったんだけど、同時に悲しかったんだ」
「悲しかった?」
 うん、とコレットは再びロイドに向き直る。
「ああ、これが最後なんだよねって。私は次の日、再生の儀式に出発で、ロイドとはもうお別れなんだって。そう思ってたから」
「そうだったな……」
 それから、一年。
 必ず死ぬはずだった神子は生き残り、そして、世界は完全な意味で再生された。
「あれから一年経って、今、ロイドにおめでとうって言われて、ああ、ホントに私は生きていて良かったなあって」
「ったく、そんなんで満足しきるなよ……」
「えへへ。ごめんね」
 その言葉に、ロイドは思わず苦笑する。
「そこであやまるってのもなぁ……」
「えへへ。でも、ロイドにおめでとうって言ってもらえるのは、ホントに嬉しいんだよ。私にとって、特別だから」
「だったら、約束するよ。何があっても、必ずコレットの誕生日には、『おめでとう』って言うよ。……いや、ちゃんとプレゼントも用意するけどさ」
「ホント?」
「ああ、本当だ。これから、ずっと、ずっとな」
「うんっ」
 コレットは、再びロイドの知る最高の笑顔を見せる。
 それはロイドにとって、この白夜よりもきれいなものに思えた。



 フラノールイベントぱぁと2……本編がぱぁと1です(マテ)
 オープニングのあのシーンでロイコレに転ばない人はロイコレにあらず……と言い切りたい今日この頃(ぇ
 しかし立ち位置がゲームと本編で違うのはなぜ……あ、そうか。あのOPはゲームで話が終わった後にくっついているんですね。だってゲーム中でもあそこまでぴったり寄り添ってはいないし(黙れ)
 というわけでロイコレです。誰がなんと言おうがロイコレはやっぱり良いです(だから黙れ)
 しかしロイコレってゲーム中の話はあんまり浮かばないんですよね……つか、すでにゲーム中で描き切られているというか(^^;
 あとはコレットの状況がず〜っと辛すぎて書けないというのもあります。神託受けてから心を封じられるまではひたすら死ぬための旅をしてるわけで、その内心は想像すると……ですし、心を取り戻した直後はともかく、その後は今度は再生の旅を途中で投げ出してしまった神子という負い目を感じつつ、かつ永続天使性無機結晶症……。本当の意味で彼女が希望を見出せるのは、ホントにルーンクレストを装備して永続天使性無機結晶症が直り、かつ世界を本来の姿に取り戻す方法がわかった後、つまりフラノールのイベントからじゃないでしょうか。
 いや、これは全キャラ同じといえば同じですが、コレットは当事者ですからね。
 そう考えると……ホントにつらい……薄幸少女って称号がありますが、ホントに薄幸……かわいそすぎます、作中。無事直ったときは嬉しかったのなんの。
 というわけで(どういうわけだ)戦後のお話。誕生日ネタです。
 実際、あの時のロイドの会話は、コレットにとってはロイドとの最後の逢瀬だったんですよね。いや、実際には違いましたが……。一体あの時、コレットの内面にはどれだけの想いがあったのかは正直想像すると怖いくらいですね。っていうかロイドとコレットってホントに精神頑丈というか強いですよね……。いや、コレットは生まれた時から宿命付けられているとしてもねえ。
 ちなみにフラノールに白夜があるのかどうかのツッコミは却下(ぉ
 いや、単にやっぱ雪国の夜のネタとしてはやらねば、ということで。
 作中のは完全な白夜じゃありません。完全な白夜は極地でくらいしか見れないですからね。完全に太陽が沈まないのは。
 ただ、太陽が沈んでも、地平(水平)のすぐ下だったりするんです。そうすると夜明け前みたいに南側(南半球なら北側)が明るいんです。
 ちなみに私は白夜とまではいいませんが、近いのは体験したことがあります。まだブラジルに住んでいた頃、かなり南に夏に行ったときのことですが、夜中の21時だというのに、まだ明るかったんですよ。その時の空の、なんかその不思議なグラデーションがとても綺麗に感じました。いつかまた行って見たい、と思ってます。文章では表現し切れていませんが……修行不足……(_..)_



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