あなたは、十六歳の誕生日に、クルシスの天使様から神託を受けるのです。 そして、あなたは世界再生の旅に出て、天使となってこの世界を救うのです。 十六歳の誕生日に、あなたの本当のお父様が来て、あなたを導いてくださるのです。 だから神子様。 どうか世界を、お救いください。 どうか世界を、平和にしてください。 |
生まれた時から、私は『神子』だった。 周りの人にずっとそう言われて育ってきたから、そうなんだろう、と。子供の頃は漠然と考えていたし、時々自分の名前は『神子』と『コレット・ブルーネル』のどっちなんだろう、と思ったこともあったっけ。 それがどういうものか、なんとなく分かるようになって、そして自分の役割はこうなんだって思った時、とても悲しい気持ちになった。 私が天使になって、世界を救ったら、私はどうなるの? 前にシルヴァラントで世界再生に成功した神子は、八百年前まで遡るけど、その時その人はどうなったの? でも誰も、この質問はちゃんと答えてくれなかった。 でもなんとなく、私は分かっちゃった。 初代の神子スピリチュア様のお墓すら、シルヴァラントのどこにもない。 つまり、そういうことなんだなって。 |
「あーん、どうしよう……」 大事にしていた飾り石。お母様の形見だって、お父様がすごく大事にしていた。 陽に透かすときらきら輝くそれは、私もとっても好きで、よくこっそり持ち出して眺めるのが、好きだった。 それが、なくなってしまった。 正しくは、持って行かれてしまった。 うっかり落としたら、運悪くそこに獣がやってきて、くわえて持っていかれちゃった。 確かあの獣は、村の外に巣があって、そこに光るものを集めるのが趣味だって聞いたことがある。 村の人もたまに持って行かれていて、困ってはいるんだけど、そもそもあまり実害はないから放っている。取られたら巣に行けば取り返せるから。 でも私は。 「村を出たら……怒られる……よね……」 多分素直に石を取られたことを話せば、お父様もお祖母様も怒ったりはしない。多分誰かが取りに行ってくれるだろう。 でもそれは、私が『神子』だから。 「うん、だいじょぶ。すぐ戻ってくればいいんだから」 そして私は、生まれて初めて村を出た。 |
「こっちだって聞いたことあるんだけど……」 イセリアを出てすぐの森。人が通ることがあるのか――後でそれがディザイアンの道だと知ったけど――けっこう森は開けている。 あの獣の巣は、森に入ってすぐのところだって聞いたけど、と探したら、それはすぐ見つかった。 道から少し外れた、崖、とまで言わないほどの段差の下。太陽に反射して、一瞬見慣れた光が見えたから、間違いない。 「えっと……降りるとこは……」 きょろきょろと辺りを見渡したけど、これといって都合のいい斜面は見当たらない。 「う〜ん……」 自分の背丈よりちょっと高い段差。 多分、飛び降りる分には問題はない。ただ、上がってこれる自信がない……けど。 「でもま、なんとかなるよね」 意を決して、えい、と飛び降り……ようとして、私は躓いた。 なんでかいっつも、何もないところで躓くことが、私はよくある。 ただ、この時のこれは、最悪のタイミング。 「きゃっ!!」 バランスを崩して、頭から段差を落ちようとしている。このまま落ちたら、確実に頭を思いっきりぶつけちゃう。 痛いかな。 もしかしたら、死んじゃうかな。 でも、どうせいつか死ぬんだよね、私……。 「危ねえ!!」 突然聞こえた声と、腕に伝わってきた衝撃で、私は驚いて現実に立ち返った。 腕の衝撃は、自分が思いっきり引っ張り上げられた時の衝撃だと、少し経ってから気付く。 「大丈夫か?」 振り返ったその先にいたのは、知らない男の子だった。 私と同じくらいの年かな? やんちゃそうな、ちょっと変わった服を着た男の子。でも、どっか優しそうな気もする。 「え、えっと……うん、だいじょぶ」 「いきなり頭から飛び降りようとしてるから焦ったよ。何しようとしてたんだ?」 転びかけた、とは恥ずかしくて言えなかったので、私はここに来た目的だけを話した。 「ふ〜ん。あ、あれか。ちょっと待ってろよ」 男の子は言うが早いか、あっさりぴょん、と飛び降りて、巣まで行くと、飾り石を取って、こっちに示してくれた。 「これか?」 「う、うん。ありがと」 「なぁに。ドワーフの誓い第二番『困っている人を見かけたら必ず力を貸そう』だ」 「???」 それは私にはよく分からなかったけど、とにかく助かったのは確かで。 それから、男の子を引っ張り上げるのを手伝うために立ち上がろうとして、私は目を見張った。 男の子があっさりと、どこに手をかけるでもなく一足飛びで、段差を上がって来たのだ。 「ほれ。もう失くすなよ」 「す、すごい〜。ど、どうやったの?」 私は飾り石を受け取るのもほどほどに、男の子をしげしげと眺めた。 別に、極端に鍛えられているってわけでも、なさそう。腰に剣があるけど、それも良く見ると木で作られている。見習いの剣士様、なのかな。でも、すごい。 「ああ、たいしたことじゃないよ。ほら、このエクスフィアのおかげ……」 「神子様〜〜〜どちらにいらっしゃいますか〜〜〜」 「あ」 まずい。 勝手に村を出たのがバレちゃった。 「ん? あれ、お前のことか?」 「え、えっと……」 「神子様!!」 説明にまごついている間に、あっさり見つかっちゃった。 村の人の何人かが、『神子』を取り囲む。 「神子様!! 勝手に村を出ないように、とあれほど……」 「ご、ごめんなさい〜」 「あのさあ、せめて理由くらい聞いてやれよ。そんな一方的に怒らなくたって……」 「ん? なんだお前は」 「……なんだはないだろう。そっちが先に名乗るべきじゃないか」 「あ、あのね。この人は私を助けてくれたの。だから、悪い人じゃないから」 一瞬、村の人と男の子の間の空気が険悪になりかけたので、私は慌てて割り込んだ。 村の人も、私には強く言えないから、とりあえずその場は引いてくれる。 「とにかく、勝手に村を出ないで下さい。よろしいですね、神子様」 「はぁい」 私はとりあえず素直に返事してから、男の子に向き直った。 「ごめんね。それからほんとにありがと。あ、私、コレット・ブルーネル。あなたは?」 「ああ、ロイド・アーヴィングだ。今日から親父に言われて、イセリアの村の学校に通うことになったんだ」 その時私は、きっととっても嬉しそうな顔をしてたと思う。 「あ、私も通ってるの。えへへ。一緒だね。よろしくね、ロイドくん」 「ロイドでいいよ。くん、なんてくすぐったいし。俺もコレットって呼ぶからさ」 「こら、お前、神子様に対し……」 村の人が言いかけたけど、私はそれより先に言葉を挟んだ。 「うん、よろしくね、ロイドっ」 |
|
「あ……」 私はふと立ち止まって、道の脇にある巣穴に目を向けた。 「どうかして? コレット」 「あ、リフィル先生。いえ、なんでもないです」 かつては私の背丈よりあった段差も、今は私の胸より少し上くらい。 あの獣も今はいなくなっていて、暗いこともあって巣穴はもうそれと分からなくなっている。 明日。 私は再生の旅に出る。 幼い頃からずっと言われていた、世界再生の儀式。 でも本当は、ずっと怖くて、行きたくない、と思ってた。 それが変わったの、ロイドのおかげなんだよ? あの時、ロイドに会えたから、私は、出来るだけ生きていこうと思ったんだよ。 そして、ロイドに、生まれ変わった世界を見せてあげたいの。 多分私は一緒には見れないけれど。 もう、ロイドに会うこともないだろうけれど。 でもちゃんと、さよなら言えたから。 だからロイド。 再生された世界で、ロイドは幸せになってね。 |
というわけで、コレットとロイドの出会いです。 ちなみに年齢はロイド11歳、コレット10歳くらい。まだジーニアスやリフィル先生がイセリアにいない頃です。直前くらいではありますが。どっち(コレットとジーニアスらがロイドに会うの)が先かなあ、と思ったんですが、やっぱこの二人が先かな、と思って。 コレットは実際、子供の頃からずっと神子として育てられてきていたわけで、多分漠然と自分の運命については幼い頃から知っていたと思います。で、あの旅立ちの時のロイドとの会話と、あの置手紙からすると、ロイドがいなかったらコレットはあるいは世界再生を投げ出してしまっていた可能性もあったんじゃないかと。実際、与えられた役目について延々と言われるのって、すごいプレッシャーでしょうからねえ……ましてそれが自分の死に直結するのならば。そうでなくても『世界の運命』なんて重すぎですし。なので、冒頭はそのプレッシャーを表現してみました……うまくいったかな? 最後のシーンは、ダイクの家でコレットが出発は明日の昼、と嘘をついた、その後です。帰ってくる途中ですね。つか、このシーンは書いてて非常に辛かった……。多分今後も、少なくともゲームで言う『シルヴァラント編』の話は、ギャグ以外では(これは若干ネタがある)書くことはほとんどないと思います。コレットが辛すぎる……。っていうか書いていて辛いです(涙) ちなみにロイドとコレットですが、コレットは多分ほとんど一目ぼれに近かったんじゃないかと思います。何より、ロイドはコレットを『神子』ではなく『コレット・ブルーネル』として見てくれる最初の人だったんじゃないかと思うし。ロイドは……たぶん最初は幼馴染でしかなかったと思いますが……。作中で少しずつ変わっていってるとは思いますが。ただ、誰よりも大事に思ってるのは確かでしょう。特に、コレットが一度心を失ってから。一応ロイドの相手は固定ではないため、作中目立ってコレットとの関係を演出されてはいないですが……でもやっぱり、全体的にコレットとのイベントが一番自然だと思う……のは、やっぱりひいきでしょうかね(^^; あと再びの一人称。三人称でもよかったんですが……なんとなく。失敗したかもですが……(汗) |