作り出せぬもの(前)



 人も寄りつかないように見える高い山。遥か遠くに大きな街をのぞみ、眺めは大変よいが、ここに来る酔狂な旅人など、普通はいるものではない。ほんの数年前まで、ここ、ヴィラント山は、凶暴な火竜フラン・プファイルが巣くっている、文字どおり魔の山だったのだ。いくらフラン・プファイルがいなくなったとはいえ、凶暴な怪物が巣くい、危険な場所には変わりない。
 しかし。
 同時にここは貴重な炎の石を多く採取できる火山でもあった。
 炎の石――正式にはカノーネ岩。主に火の属性をもつ錬金術の実験に欠かせない、燃える砂、中和材などを作り出す原料となる素材である。ただ、アカデミーのある街、ザーレブルグの近くでこのカノーネ岩が採取できる場所は、こことこのふもとにあるエルフィン洞窟しかなく、またこのヴィラント山の方が良質のカノーネ岩を採取できることが多い。
 そのため、アカデミーでは冒険者などを護衛として雇ってこのカノーネ岩を採取するのだが、この採取されたカノーネ岩は、アカデミーでの研究にすべて使われる。そのため、アカデミーの庇護下にない――アカデミーの生徒であっても独自に器材、材料の獲得し、また生活費を自分で稼ぐことを条件として入学した生徒も――者たちは、自力で材料を集めなければならないのだ。
 そして、エリーことエルフィール=トラウムもそういった生徒の一人であった。
「あ、あった〜。これで今日は4つ目。ついてるな〜」
 嬉しそうに、しかし慎重に取り出したカノーネ岩を持ち、そのまま金属の箱に入れる。別名「燃える石」とも呼ばれているこの石の扱いは、細心の注意を払う必要がある。エリーも最初、この扱いにミスって火傷を負ってしまったこともあるのだ。
「んなもん、そこら辺にたくさん転がっているじゃねえか。なんでその辺のは取らないんだ?」
 同行している護衛の一人が面倒くさそうに口を開く。鮮やかな青色の鎧は、ザールブルグの王宮騎士の制式装備。王宮騎士ダグラス=マクレインである。口は悪いが、それでもちゃんと周囲には気を配ってくれている。年末の王宮主催の武闘大会で不敗を誇る、騎士隊長エンデルクを倒す、その最有力候補だ。今回も、休み(騎士隊は基本的にはそれほど仕事がない)を上手く使って来てくれているのだ。本人はこれも修行の一環だ、と言っているが。
「うるさいわね〜。ちゃんと質のいいものじゃないと、いいものは作れないの。もうすぐ卒業だから、少しでもいい成績を残したいの!!」
 アカデミーに入って早4年。ダグラスと知り合ってからもそのぐらいだ。今でこそ、エリーも強力な魔力の杖『陽と風の杖』で戦えるが、初期にはとにかく戦う力がなく、護衛を雇うしかなかった。ダグラスは、なんのかんの文句を言いながら、護衛を引き受けてくれていた。もっとも、初めは随分と高い護衛費を取られていたが、エリーの収入が安定している今では、逆にそんなに護衛費は取らない。騎士隊の仕事があるから、いつも護衛に来てくれるわけではないが、来れる時はいつも付き合ってくれている。だから、こんな危険な場所の採取に来ることも出来るわけで、それには感謝している。ただ、それでもあの口とガラの悪さは未だに直して欲しいな、とは思う。
 そんなことを考えていて、ふとダグラスを見た時、思わず思い出し笑いが洩れた。ちょうどダグラスもエリーの方を見ていたらしく、それを見咎めていた。
「なんだ?いきなり人の顔を見て笑い出して。なんか変だったか?」
 いぶかしんでダグラスが聞いてくる。
「ち、違うの。この間のことちょっと思い出して。普段のダグラスのイメージと、あまりに違ったから……」
「なんのことだ?」
 するとエリーは、自分のマントの裾を持ってダグラスに示した。
「ああ。それか。そんなに変か?俺が裁縫できるのが」
「う〜ん。変とは言わないけど、やっぱり普段のがさつなダグラスからは想像できなかったな」
「お前……本人を前にそういうこと言うか?」
 ダグラスがあきれたように言う。実際、意外だったのは事実だ。
 飛翔亭の入り口で、お気に入りのマントを引っかけて破いてしまったのだが、偶然そこにいたダグラスは、それをあっという間に縫い直して元どおりにしてくれた。エリーも裁縫は下手ではないが、ダグラスが裁縫できるとは思わなかったのだ。
「俺、両親いなかったからな。いつのまにかそういうことは出来るようになっていたんだ」
 驚いてエリーは顔を上げる。ダグラスが、遥か北の方から来たのは知っていたが、両親がいなかったのは知らなかった。
「ああ、言っていなかったか。別にそんな不幸だったわけじゃあないぜ。ただ、流行り病でな。ザールブルグにいる、錬金術士みたいなのがいればあるいは助かったのかもしれないけど、まあ運が悪かったのかもしれない。いや、逆か。お前みたいに運よく錬金術士が通りかかってくれるなんて希だろうからな。だから、お前みたいな錬金術士には、さっさと一人前になってもらいたいんだ」
 流行り病で生死の境をさまよったエリーには、それはとても人事とは思えなかった。
「そうなんだ……。うん。私頑張るね。……でも、じゃあなんで故郷を出てきたの?」
 ダグラスほどの力があるのなら、故郷でも重宝されただろう。出て行く時は相当反対されたのではないだろうか。
「俺、剣で誰よりも強いって自信があったんだ。そして、誰よりも強いって証明を手に入れようと思って、ここにいたという火竜フラン・プファイルを倒してやろうと思った。まあ故郷の人は反対したけどな。けど、俺みたいに孤児になったものがあの街には多かったから、出て行く方が町全体にとってはよかったんだ」
 普通に聞くと随分と深刻な話なのだが、ダグラスは意外と淡々と話している。そのため、エリーもあまり暗い気持ちにならないですんだ。
「ところが、だ。いざ来てみたらフラン・プファイルは倒された後じゃねえか。だったら、その倒した奴を倒せれば、と思ったんだが……」
 火竜フラン・プファイルを倒したのは現王室騎士隊長のエンデルクである。そして、今ではこのザールブルグはおろか、おそらく近隣諸国でも無敵であろう、と噂されている人物なのだ。
 実際、ダグラスは毎年のように年末の武闘大会で決勝まで進み、エンデルクに挑んでいる。だが、毎年勝てないのだ。
「確かに隊長は強いよ。だが、俺は隊長を倒す。必ずな。でないと、このザールブルグまで来た甲斐がないってもんだ」
 ダグラスは自分の剣を握り直す。その向こう側には、常にエンデルクを見続けていたのだろう。
「うん。ダグラスならきっといつか勝てると思う。頑張ってね」
「お、おう」
 いきなりエリーに応援されると思っていなかったダグラスは、ちょっと驚いていた。その仕種は、年齢よりむしろ若く見えた。

「ねえダグラス、確かあなた、新年からしばらく休めるって言っていたわよね?」
 久しぶりに酒場に来たダグラスが、やや早い夕飯と酒を頼んだ直後、突然エリーが現れた。夜の酒場、というのはあまり女性が出入りする場所ではないのだが、エリーの場合、いつもこの酒場で色々な依頼を引き受けてきているので、今更気にもしないのだ。
 もうすぐ新年。武闘大会も、結局エンデルクの優勝で終わり、街全体が新年の準備に忙しく動き回っている。ダグラスは、今年もまた決勝まで行ったが(ダグラスとエンデルクは必ずトーナメントでは逆サイドに配されている)やはりエンデルクには勝てず、なかば、今日の酒はヤケ酒のつもりであった。
 そのダグラスの心中を察してか、国王――正しくは前王だが――は、ダグラスに長期の休暇をくれた。毎年の騎士隊のザールブルグ周辺見回りも休んでいい、としてくれたのだ。ダグラスとしては、もうこれで6回も挑んでいるのだが、一度も勝てたことはない。「エンデルク打倒の最有力候補」などと呼ばれていても、いつまでも勝てないのでは意味がないのだ。
「確かに休みはもらったが……なんだ?また採取に付き合えってか?」
 するとエリーは首を振る。
「違うの。カスターニェって街知ってる?」
 街の名前は聞いたことはあるが、詳しくは知らない。たしか、ザールブルグの西にある街だ。
「聞いたことくらいはあるが……それがどうした?」
 あまり興味はない、という風にダグラスはエリーを追い払おうとした。
「今度ね、そこに行くの。で、ダグラスについてきてもらおうと思って」
「何だと?!」
 よくは知らないが、少なくともそんなすんなりといって帰って来れる距離にある場所ではない。
「大体お前、アカデミーはどうするんだ。マイスターランクとかってやつは、前よりも大変なんだろう!?」
 エリーはアカデミーを優秀な成績で卒業、そのままアカデミーの中でも特に高度な研究を行っているマイスターランクへ進むことが認められた。ただ、エリーはあえてアカデミーの庇護下で研究するのではなく、自分自身で研究していく道を選び、マイスターランクに所属しながらも、それまでと同じく工房に住んでいる。
「大丈夫よ。たまには息抜きしないとね。それに、今回は別に目的があるんだから」
「目的?」
 ダグラスが聞き返したが、エリーはわざとそれを無視することにした。
「とにかく、明後日、昼に外門のところに来てね、分かった?」
 エリーはそれだけ言うと、さっさと行ってしまった。後には、半ば呆然としたダグラスが残されていた。

「……で? 目的ってなんだ?」
 ザールブルグからカスターニェに向かう荷馬車の中で、ダグラスはエリーに聞いた。これだけ遠くに行くのに、護衛はダグラス一人である。エリーによると、カスターニェの街で、もう一人合流するから、という話だが、どうもよく分からない。
「うん。カスターニェの街で、海竜フラウ・シュトライトってのが暴れているの、知ってる?」
「ああ。噂では聞いたことがあるが……おい、まさかそれを?!」
「そう。わたし、どうしてもあの海の先に行きたいの。でも、あの海竜がいるから船は出せない。前に行った時、一回戦ってみたんだ。ハレッシュさんとかと一緒に。全然勝てなかった。大慌てで逃げてきたわよ」
 ダグラスは半ばあきれていた。戦う力のない錬金術士が、海竜と戦うなど、無茶な話だ。
「なんだってそんなに海の向こうに行きたいんだ?」
 するとエリーは急にまじめな顔になる。
「前に、少し話したでしょう?私の命の恩人の錬金術士……その人が、海竜が出る前、海の向こうに行ったらしいの。だから、私も行きたいの。いえ、行かなきゃ……私が錬金術士を目指したのは元々……」
 唇を強く噛み締めている。その様子から、エリーの想いの強さが分かる。同時に、ダグラスは自分が恥ずかしくなった。たった6回勝てなかったくらいで、隊長に勝つことを諦めかけていた自分が。
「わぁ〜ったよ。付き合ってやる。だけど、なんで今になって突然行くんだ?」
 するとエリーは懐から手紙を取り出した。ダグラスはよく知らないが、アイフェという木の皮で作られる特に丈夫な紙である。
「前にカスターニェに行った時に知り合った、ユーリカさんって人からの手紙。カタパルトって知ってる?巻き上げ式の強力な弩弓なんだけど、これを船に取り付けたんですって。だから、上手く行けば今度こそ、勝てるんじゃないかって。だけど、それだけじゃ不安だから、私が知っている人の中で一番強い人連れて行こうって思って」
「だったら隊長の方が強いんじゃないのか?」
 言ってしまったのは、やはりまだ隊長に勝てない、という引け目があるからだ。だが、言ってしまってからなんて自分が矮小な人間に思えてきた。
「だってまさか王室騎士隊の隊長をカスターニェまで連れて行くわけにもいかないでしょう?それに、ダグラスは隊長より強くなるんじゃないの?だったら、ダグラスでも変わらないじゃない」
 そういってコロコロ笑う。それは、かつて出会ったばかりのころと、なんら変わらなかった。

「よう、来たねえ。船の方はもう準備もばっちりだよ」
 カスターニェの街についたエリー達は早速「船首像」という酒場に行った。そしてそこで、船の持ち主である、というユーリカに会った。ユーリカはいかにも船乗り、という感じのさっぱりとした女性で、ダグラスを一瞥するなり、
「ふうん、結構強そうじゃないか。頼りにしてるよ」
 というと、いきなり背中をバン、と叩いてくれた。
「あ、ああ。よろしく」
「それじゃ、早速行こうか。今日は、行くまでは天気がよさそうだしね!!」
 ユーリカの元気のいい声で、ダグラスとエリーは船に乗り込んだ。
 船自体はかなり大きなものだった。考えてみれば海竜と戦おう、というのだからそんなに小さいはずはない。船には、かつてユーリカの父親の部下だった、という男達がたくさん乗り込んで、船の出航準備をしている。そしてその船の甲板に、そのカタパルトがあった。
「こいつは……確かにすごいな」
 ダグラスも、カタパルトと呼ばれるものを見たことはある。だが、これはそんなものとは大きさが違った。普通の巻き上げ式の弩、といっても攻城兵器クラスでも撃ち出す矢はせいぜい長剣ほどの大きさだ。だが、これは長槍クラスの大きさの矢を撃ち出す。というより、もはや使っているのは長槍そのものだ。
「凄いだろう?特注品だよ。これならフラウ・シュトライトにだって、かなりのダメージを与えられるからね」
 ユーリカが自慢気に言う。確かに、これならたとえドラゴンであろうとも、かなりのダメージが出せるだろう。
「あとは、これね」
 エリーが、変わった形の扇を取り出した。普通のものでないのは、容易に見て取れる。
「これはね、『羽魚扇』って言って、津波とか、そういうものをある程度制御できる扇なの。フラウ・シュトライトの起こす津波は、普通のものとは違うから、完全に制御できはしないだろうけど、それでもないよりはいいはずだから」
「随分前から準備していたんだな。分かった。俺も頑張らせてもらうぜ。それに……これに勝てれば……」
 ダグラスの言葉に、エリーはニッコリと笑ってうなずいた。ちょうどその時、出航準備が整った、という話がもたらされた。

「雲行きが怪しい!! 来るぞ〜〜〜〜!!」
 見張りの男の声が、船上の全員を緊張させた。フラウ・シュトライトのいる近くは常に嵐である。小さな交易船などでは、フラウ・シュトライトに近づくまでもなく沈められてしまうだろう。
「来たか……!!!」
 高波の向こう側に、その巨体が見えた。長大な体躯。まさしく、海竜の名に相応しいその巨体が、自分のテリトリーを荒らす侵入者を発見した。なんとも表現のしようのない嘶きあげ、フラウ・シュトライトは突っ込んでくる。
「食らえ!!」
 先制の一撃は、ユーリカの放ったカタパルトの一撃だった。放たれた槍は、風を切り裂いて、フラウ・シュトライトの巨大な体に突き刺さり、そのままその柄の半ばまで食い込む。フラウ・シュトライトが苦悶の叫びをあげた。
「早く巻き上げて!!」
 ユーリカの声に応えて、男達がカタパルトを撒き始めた。カタパルトの欠点は、巻き上げている間は、全く使えないことだ。そして、それを逃すフラウ・シュトライトではなかった。
「来る!!」
 ユーリカの声と同時に、フラウ・シュトライトの手前の波が盛り上がった。いや、盛り上がったという表現は正しくない。波そのものが、フラウ・シュトライトの牙となって襲い掛かってきたのだ。
「お願い!!」
 エリーが、先ほど見せていた扇をかざして、それに魔力を込める。とたん、扇が青白い輝きを発し、それは船全体を包み込んだ。
 ドン、という音がした気がした。しかし、波はまったく船を傷つけてはいなかった。あれだけの波を、すべて弾き返していたのだ。
「ダメ!! もう扇がもたない!!」
 エリーの悲痛な声が、一瞬の沈黙を破った。エリーの持っていた扇は、既にボロボロになっている。ダグラスには、一撃でもあの津波を食らったら、船自体がもたないことは容易に想像がついた。
 そこへ、無防備なエリーに、フラウ・シュトライトの尾が迫ってきた。
「危ねえ!!」
 ダグラスがエリーを突き飛ばした。そのため、代わりにダグラスが弾き飛ばされる。そのまま、船の壁に凄まじい勢いで衝突した。
「ダグラス!!」
 エリーは慌てて傷薬を取り出そうとした。
「俺はまだ大丈夫だ!!」
 そういってすぐ立ち上がる。そこへ、フラウ・シュトライトが、鎌首をもたげてきた。
「ダグラス、上!!」
 エリーの叫びと、フラウ・シュトライトがダグラスに向けてその牙を剥いたのは同時だった。
「いやあ〜〜〜!!」
 エリーも、ユーリカも他の船員も、ダグラスがフラウ・シュトライトに潰されたと思った。
「か、かってに殺すなよ……俺は、隊長を倒すまで他の誰にも負けるわけにはいかないんだよ……!!」
 ダグラスは、紙一重で避けていた。しかも、その首に深々と剣を突き立てている。
「さっさと撃て!!動きが止っている今がチャンスだ!!」
 ダグラスの声に、弾かれるようにユーリカと仲間達がカタパルトを巻き上げる。フラウ・シュトライトは、ダグラスの剣を無理矢理引き抜いて、そのカタパルトを潰そうとする。だが、長槍が放たれるのが、ほんの一瞬早かった。フラウ・シュトライトの左目に、長槍が深々と突き刺さる。その時上げられた唸りは、しかしまだ断末魔のそれではなかった。
 そして、一番手近にいた人間――エリーを道連れにしようと鎌首をもたげる。
「しつっこいんだよ!!」
 いつのまにかエリーの前に立っていたダグラスは、その長剣を一閃させた。今度も、断末魔はなかった。その代わりに、大きな音と共に、何かが甲板に落ちる。それは、フラウ・シュトライトの首だった。それが、フラウ・シュトライトの最期であった。


「正直……未だに信じられねえ。おれが、フラウ・シュトライトを倒したなんて……」
「どうしたの?」
 急に後ろから声をかけられて、ダグラスは驚いて振り返った。立っていたのはエリーである。海は驚くほど穏やかで、海竜がいたとはとても思えない。
「いや、本当に俺が倒したのかな、ってな。この穏やかな海を見ていると、全部夢だったんじゃないか、とすら思えてきてよ」
 そう言いながらも夢でないことは、手の感触や、海竜に吹き飛ばされた時の痛みが教えてくれている。
「何言ってんの!!ダグラスが頑張ってくれたから、海竜を倒せたんじゃないの。もっと自信を持ってよ、聖騎士様」
「……そうだな。なんか、今度こそ行けそうな気がする」
 ダグラスは、何かを噛み締めるように言った。
「え?」
「隊長は火竜を倒した。俺は海竜を。これでようやく隊長と並べたような気がするんだ。今度こそ、隊長に勝てる、そんな気がするんだ」
 今までと何か、劇的に変わったことがあるわけではない。しかし、ダグラスには、何か、「今度こそ勝てる」という自信が生まれてきていた。
「うん。今度こそ、ダグラスなら勝てるよ。私も、応援するから」
 今までも十分頼もしい、と思っていたが、今のダグラスは、エリーには今まで以上に頼もしい存在に思えた。それは、ダグラスが、これまでになく自信をつけていたからなのだろう、とエリーは感じていた。



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