し る べ    
風の道標・第十二話




 その報告が、フュリーのところにもたらされたのは、もう雪もちらつき始める、冬の入り口ともいえる季節だった。
 すなわち、トーヴェ軍動く、と。それは、レヴィンが今年は叔父上も動かないのではないか、と考え、一度くらいは母やマーニャに会いにシレジア行こう、と考えたその日に、もたらされた情報だった。
 これまでに分かっている範囲で、トーヴェにいる軍は歩兵200人、魔法師団100人、天馬騎士150騎。シグルド軍は天馬騎士50騎、歩兵100人、騎兵100人。歩兵の大半はシレジア軍に属し、指揮権は名目上はフュリーが持つ。天馬騎士団はもちろんフュリーの直轄だ。騎兵は、シアルフィ、ユングヴィからずっとついてきた騎士と、ノディオンの騎士で構成されている。こうなってくると、冬に入る直前にいなくなったキュアン達の穴を埋めるのが辛かった。有能な戦闘指揮官であり、また個人としても神器・地槍ゲイボルグを持っていたキュアンの穴は、特に痛い。しかも今回、シグルド軍でも最強の女騎士であるラケシスが、懐妊していることが判明し、戦闘参加が不可能となった。ラケシス王女は、特にノディオンの騎士達にとってはカリスマ的存在であり、実際アグストリアでは、今はレンスターに戻ってしまったフィンと並んで、シャガール王の雇った傭兵部隊の陣を切り裂いていく姿は、非常に心強かったのである。
「ここまで不利だと、いっそ気持ちが良いくらいだな。もっとも、それならそれでやりようはある」
 シグルドはそういうと、作戦会議の席で、全員を振り返り、とんでもないことを提案した。
「原則として、歩兵は全てこのセイレーン城に待機してもらう。多分敵は、我々が数に劣っていることは知っているだろう。だが、だからこそ城から撃って出てくるとは思っていないはずだ」
 確かに、数に劣る軍は、野戦になっては圧倒的に不利である。対して、城塞に拠って防御に徹するのであれば、一般的に3倍の敵と戦うこともできるという。しかし、篭城戦は援軍があることが前提である。今回は(今回も、という認識は全員が持ったのだが)シレジアから援軍は期待できない。期待できないというよりはすべきではない。シレジアもまた、ザクソン城の脅威に晒されているのだ。
「敵の中核は魔法師団と天馬騎士だ。各軍の数は我が軍と同等かそれ以下。そして、天馬騎士と魔法師団は同じ速度で行軍することはない。そうだな?」
 最後の言葉はフュリーに向けられたものだ。フュリーは黙ってうなずく。
「そこに、我々の付け込む隙がある。報告によれば、トーヴェ軍はまず魔法師団を進発させたらしい。我々は、騎兵のみで先行し、彼らが合流する前にこれを叩く。その後、天馬騎士を待ち伏せて、これを撃退する。連戦になり、辛いとは思うが、数に劣る我々ではこれしか方法はない」
 そして、もしものために、歩兵が城に残るのだ。トーヴェを攻略できたとしても、それでセイレーンが奪われては話にはならない。
「今回は、特に速さをもって戦う必要がある。それに私達は、シレジアの寒さになれていない。じきに、戦うどころではなくなってしまうだろう。そうなる前に、トーヴェを攻略し、その脅威を取り除く必要がある。みんな、力を貸してくれ」
 今更頼まれなくても、というのが全員の意見であったが、そこでこういう言い方ができるのがシグルドという人物が、彼たる所以だということもまた、彼らはよく知っているのだった。

 基本方針の決定したシグルド軍の行動は速かった。騎兵のみの部隊と、天馬騎士はその日の昼にはセイレーンを進発した。
 戦闘指揮官は、総大将がシグルド。それに対天馬騎士の切り札であるミデェールの指揮するユングヴィの弓騎士。そしてノイッシュ、アレクがシアルフィの騎士を統括する。本来、これはシグルドの役目であったが、今回シグルドはノディオンの騎士を直轄に従えた。そして、フュリーの指揮する天馬騎士。総勢で150騎。そして、無理を言ってついてくると言い張ったレヴィン。慣れない馬を操って必死についてきている。まだ雪はそれほど降っていないため、道は馬が走るのに不自由はない。そしてオイフェの手配により、シグルド達はほぼ完璧にトーヴェ軍の動きを把握していた。
 トーヴェ軍から進発した魔法師団は、トーヴェからセイレーンの道程の半ば辺りまで来ている。ディートバ率いる天馬騎士団との合流は、4日後と見られていた。本陣である、マイオス自らが率いる部隊は、さらにその後ろである。しかしシグルドは、3日後に魔法師団と激突できるような速さで移動したのである。

 その日は、夜から雪が降り続け、足首が雪に沈む程度には積もっていた。シグルド達の故郷であるシアルフィ、ユングヴィはグランベル王国でもかなり南方で、冬でも雪はあまり降らない。そのため、雪が積もった状態で戦うことすら初めてであったが、しかし最初にいきなり冬を体験させられた彼らは、今更その程度の雪なら、気になどしなかった。
 朝靄の晴れない時間。突然湧き起こった鬨の声に、魔法師団は狼狽した。最初、動物達の声である、と思ったものもいたようだ。だが、それでもこれほどの大軍はまずない。やがてそれが、馬蹄の音であると分かったとき、その最初に「敵襲」と叫ぼうとした魔道士は、永久に己の活動の全てを停止させられた。額には深々と一本の矢が突き刺さっている。
 魔道士達は、直接攻撃に弱い。普通魔道士達は単独で動いたりはしないものであるが、今回はマイオス自ら立案した作戦によって、単独で行軍していた。あと一日で、ディートバ率いる天馬騎士と合流する。彼らには、自分達が先制攻撃を受ける、という認識が完全に欠落していたのだ。
 ほぼ最初の突撃で、魔法師団100人は、その実に1/3を失った。まだ真っ白な雪が、鮮やかな赤で彩られる。その時になって、ようやく自分達が奇襲を受けたことを認識する。だが、最初の一撃で切り裂かれた命令系統は、すぐには回復しない。対して、シグルド軍は戦いなれていた。シレジアで一年間戦いをしていなかったとはいえ、その前はヴェルダン、アグストリア、オーガヒルと転戦し続けていたのだ。戦場における対応能力は、比べるべくもなかった。さらに、指揮系統の混乱を誘ったのは、フュリーの天馬騎士の上空からの突撃であった。陸と空。この二つの同時攻撃に対応できるほどの練度は、魔法師団にはなかった。まして、陸上から攻撃してくるのは、天馬騎士と同じくらいの速さで攻撃してくる、シレジアにはない騎兵なのだ。
 フュリーの天馬騎士の攻撃が通り過ぎた直後、そのまま乱戦となる。こうなってしまえば、迂闊に魔法を撃てるものではない。下手をすると、味方を攻撃してしまう可能性があるのだ。もはや、魔法師団の指揮系統は混乱し、収拾がつかなくなっている。それに更に止めを刺したのは、魔法師団の指揮官、マクヴァルの戦死だった。
 魔法師団の指揮官マクヴァルは今年で30歳。シレジア魔法師団全軍を統べる魔法師団長アーヴァとは同期で、14歳で魔法師団に入団した英才であり、一時期、レヴィンに風の魔法を教えていたこともある。一時期、というのはあっという間にレヴィンが彼の力を追い越してしまったためである。彼自身の家柄は、辿ればかつては風の聖戦士セティと共に戦った戦士(といっても魔法使いだったが)を始祖としている。いわば、シレジアでも有数の有力貴族であった。レヴィンも、かつてマクヴァルに教わっていたことはよく覚えている。誇り高く、また不正を嫌う彼が、なぜマイオスについたのか、レヴィンはそれが聞きたかった。その点に関しては、ディートバにも聞いてみたいのだが、とりあえず今はマクヴァルである。そのために、わざわざ無理を言ってついてきたのだ。
 マクヴァルを見つけるのは、簡単だった。風の波動をよめばいい。おそらく、他の者にはできないだろうが、レヴィンにはできる。風の流れをよみ、その中でも強力な風の波動を起こしている場所を探す。そこが、マクヴァルのいる場所だ。
「マクヴァル!!」
 マクヴァルは呼びかけられて振り向いた。何人もの騎士が彼の周囲に倒れている。まだ生きてはいるようだが、もう動くことすらままならないだろう。止めを刺そうにも、次々に襲ってくる騎士のために、できないでいるようだ。だが、すでに騎士達はマクヴァルを遠巻きに見ているだけだ。
「レヴィン王子……お久しぶりです」
 彼は、ここが戦場であることを忘れさせるかのような穏やかな声で、レヴィンの方に向き直って一礼した。その所作には、一片の滞りもない。レヴィンは馬を降りた。
「なぜお前が、マイオスについた。いや、なぜシレジアを裏切った」
 レヴィンの声が、糾弾の響きを持つ。マクヴァルは、しばらく目を閉じ、考え込むようにしていたが、やがて目を開けると静かに手を翳した。
「王子。私は、シレジアへの忠誠心を、一片たりとも失ってはおりません。今ここにこうして立ち、レヴィン王子と敵対していることも、それがシレジアのためになると信じているからです」
 彼の声の語尾に、風の呪文が重なっている。
「馬鹿な!!一体何に、誰にそそのかされた!!マイオス叔父か!!」
 マクヴァルは呪文の詠唱を止めない。そして、呪文は完成した。
「いえ、これは、私自身の意志です」
 魔法が発動した。天と地を繋ぐ、巨大な竜巻。風の最強魔法トルネード。鋼すら切り裂く風の刃で構成された、死の竜巻。それが、まるで生きている竜のように、レヴィンに襲いかかってきた。
「この、大馬鹿野郎!!!」
 レヴィンの叫びと同時に、魔力が膨れ上がった。気圧が急激に変化し、マクヴァルの引き起こした竜巻に数倍する、巨大な竜巻を引き起こした。それは、マクヴァルの起こしたトルネードの竜巻をも呑み込んでしまう。
「もう一度聞く。叔父に、そそのかされたのではないのか?」
 竜巻は、その場からぴくりとも動かない。完全に、レヴィンの意志下で制御されているのである。
「はい。私の意志で、ラーナ様とレヴィン様に対して、反逆したのです」
 マクヴァルはそう言って、目を閉じた。レヴィンにできることは、シレジア王家の人間として、反逆者を裁くこと。そしてそれを、マクヴァルが望んでいることもまた、レヴィンには良く分かった。だから、レヴィンは竜巻を動かした。マクヴァルの元へ。
「レヴィン王子。良き王となれられませ」
 マクヴァルは竜巻の向こうに消える直前、確かにそう言った。そして、竜巻が消えた後、そこには何も存在していなかった。
 指揮官マクヴァルの戦死により、ただでさえ混乱していた魔法師団の指揮系統は、完全に失われた。こうなると、個々に有機的に動くシグルド軍の敵ではない。陸と空からの多重攻撃により、トーヴェの魔法師団は、壊滅状態となり、散り散りになって敗走した。トーヴェとの前哨戦は、終了した。

「レヴィン様、どうかなされたのですか?」
 考え事をしていたレヴィンは、その声で思考を中断された。だが、別に悪い気はしない。考えても答えの出ない迷路、というのにまた迷い込んでいただけだ。顔を上げるとフュリーが心配そうな顔をしてのぞきこんでいる。だが、そのフュリーも、戦勝で浮かれているという風には見えなかった。当然だろう。戦ったのは、同じシレジア人同士なのだ。
「おまえこそ、大丈夫か?実際、こんな大規模な戦いを指揮したのは初めてだろう」
 フュリーも、シグルドと行動を共にすることによって、大規模な戦闘、というものを体験することはできた。だが、自分自身が、50騎もの部下を指揮して戦うのは初めてであった。しかも、相手は同じシレジア人である。ほんの1年前まで、仲間であった者達。それらと刃を交えたのだ。勝ったからといって、喜んでいる方がおかしいといえばおかしいのだろう。
「大丈夫です。それに、まだ戦いは始まったばかり。明日にも、ディートバ様の天馬騎士団が来るでしょう。数は今日の魔法師団より多いですし、それに今度は相手が空を飛んでいます。シグルド様達は、あまり慣れていない相手でしょうから」
「そのための、ミデェールの部隊だがな」
 空を飛ぶ天馬騎士団を攻撃できる武器は弓しかない。ユングヴィの騎士ミデェールと、彼の部下10騎は、ユングヴィが誇るバイゲリッターの者達だ。また、ペガサスは魔法以外の痛みに弱い。魔法に対しては、ペガサス自身が非常に強力な魔法障壁を持っているらしく、ダメージがほとんどないのだが、それ以外の攻撃には非常に弱いのだ。ペガサスは、弓が天敵といわれる所以である。まして今回は、ユングヴィの公女ブリギッドも来ている。彼女は、十二神器の一つである聖弓イチイバルの使い手である。その威力は、現在のところシグルド軍の中でも群を抜いて強力な威力を持っていた。はっきり言ってしまえば、矢の攻撃に弱いとかそういうレベルではないのだが、それだけの攻撃を空に対してできる、ということは、天馬騎士にとっては脅威なのである。
「でも……やっぱり少し辛いです……」
 かすれそうな、力のない声。同じシレジア人と戦うことの辛さ。もしかしたら、自分のかつての友人と戦わなければならない、という事実は、それが戦争だ、という一言で片付けるにはあまりにも辛すぎることだった。事実、レヴィンはたった今自分のかつての魔法の師を殺してしまったのだ。
「マクヴァルが……」
 レヴィンはつぶやくように言った。
「マクヴァルが、最期に言ったんだ。『良き王になれ』と。あいつは自分の意志でマイオス叔父につき、自分の意志で俺と戦ったんだという。あいつは、最期の最期まで自分を曲げなかった。最期まで、このシレジアに対する忠誠を失っていなかったんだ。だけど、やつはシレジア王家に逆らった。いや、マイオス叔父もシレジア王家の人間だから、シレジア王家に逆らった、というのはちょっと違う気がするけど……でもあいつは、俺や母上に対する忠誠心も失っていなかったんだ。一体何が、やつをかりたてたんだ?」
 フュリーはその質問には答えられなかった。彼女も、まったく分からなかったのだ。ただ、レヴィンの言うことが、つまりマクヴァルがシレジアに対する忠誠を失ったわけではない、というのは真実だと思った。根拠はない。けれど、フュリーの覚えているマクヴァルは、決して嘘を言う性格ではなかったし、なにより死の間際になって言ったという言葉が、それを裏付けている気がした。
「私には……分かりません。けれど私は、マクヴァル様や、ディートバ様がシレジアを裏切ったとは、とても思えません。私はそれを、明日ディートバ様に直接お聞きします」
「おい、無茶はするなよ。いくらなんでも……」
 四天馬騎士の一人、ディートバ。マーニャ、パメラより一つ年下で、パメラの従妹にあたる。その実力は、従姉であるパメラとほぼ同等といわれているのだ。実力的には、フュリーより上だ。
「大丈夫です。無理は、しません。まだ、死にたくはありませんから……」
 フュリーは、レヴィンが自分の心配をしてくれた、ということだけで嬉しかった。その想いを裏切らないためにも、絶対に死ねない。だが、それでもディートバに今回の真意を問いたださずにはいられない。かつて、四天馬騎士として、厳しく自分を鍛えてくれたディートバが、なぜマイオス公についたのか。そしてなぜ、シレジア王家に弓引くのか。
「私は、死にません。レヴィン様こそ、無茶はなさらないでください」
 レヴィンは分かっている、とだけ生返事を返すと、立ち上がって自分の天幕に戻っていった。フュリーはその後姿を、寂しそうに見送った。
「本当に……無茶をしないでください。レヴィン様。あなたがいなかったら、私は……」
「何で言わないの?『レヴィンが好き』って。だから死んでほしくないって」
 突然の声に、フュリーは驚いて降りかえった。立っているのは防寒着を来こんだシルヴィアである。彼女は、城にいても退屈だから、という理由だけでついてきたのだ。実際、彼女の踊り、というものは見る人に活力を与える魅力がある。それゆえに、シグルドも従軍を許可したのだ。
「あ、あの、その……だから、私は……」
 フュリーが言いよどんでいる間に、シルヴィアはさっさと背中を向けてしまう。
「言えないでいるまま、永遠に言えなくなる可能性だって、ないわけじゃないのよ。そのまま、一生後悔なんて、したくないでしょう?」
 どきり、とした。分かっている。いくらレヴィンが強力な魔法使いとはいえ、不死身などではないのだ。剣で斬られれば怪我をするし、死んでしまう。戦争、という大きなうねりの中では、いくらレヴィンの力でも、戦局を変えることはできない。圧倒的に多数の敵に囲まれてしまったら、レヴィンでも助からないだろう。あるいは、風の神魔法フォルセティならば、どうにかなるのかもしれないが、レヴィンはいまだに継承しない。フォルセティは、シレジア城で、眠ったままである。今のレヴィンは、普通より強力な力を持っている、魔道士に過ぎないのだ。だからこそ。だからこそ自分が守る、という自分が守らなければ、と思う。けれど、自分の力など、微々たるものだ。レヴィンのいない世界。それは、想像することすら、今のフュリーにはできなかった。しかし。
 それと、自分の気持ちをレヴィンに伝えるのはまた、別の問題なのだ。今は、同じ場所にいられるというだけで、満足だ。それ以上を望むのは、あまりにも贅沢だと、フュリーは思っていた。

 レヴィンは自分の天幕に戻ると、そのまま寝台に身を投げた。斥候からの報告によると、ディートバの天馬騎士は、あと一日のところまできているという。恐らく、敗走した魔法師団の誰かが、現状を報告しているだろうから、今回はもう不意討ちはできないだろう。正面からの決戦になる。シグルド軍の騎兵達はいずれも多くの戦いをくぐり抜けてきた兵(つわもの)達だが、相手の全てが空を飛ぶ部隊、というものは初めて相手するはずだ。戦いなれていない相手だけに、苦戦するだろう。フュリーの天馬騎士団が頼りだが、いかんせん、数が違う。天馬騎士の数であれば、向こうはこちらの3倍だ。ユングヴィの弓騎士隊も、数は多くはない。戦いがどう転ぶかはまったく予想がつかなかった。
 加えて、時間がかかってしまうと、叔父マイオスの率いる本陣が来る。レヴィンの記憶する限り、叔父はこと魔法の実力は相当高い。伊達に、風使いセティの家柄ではない。魔法での勝負に、レヴィン自身は負けるとは思わないのだが、血の繋がった叔父と戦うこと自体、あまり考えたくはない。かつて、シレジアにいたときは色々と嫌味も言われたが、それでも、昔から言われていたわけではない。記憶する限り、父と叔父たちは仲は良かった。レヴィンも、父王が生きていたころはマイオス叔父やダッカ―叔父に遊んでもらった記憶がある。そんな記憶のある相手と、命のやり取りをしなければならないなど、考えたくもなかった。
「叔父上……一体なぜ。王位なんて、ほしいのならくれてやる。フォルセティが使えなくったって、叔父上達は俺よりずっと、シレジアのことを考えていたじゃないか。なのになぜ、今になって内乱なんて、一番国民が迷惑する方法を取るんだ」
 苛立ちの原因の半分以上は自分にある。恐らく、自分が王位をさっさと継げば良かったのだ。そうすれば、恐らく叔父たちも反乱など起こさなかっただろう。
「結局、俺が招いたことなのか?この戦いは。だとしたら……俺はなおさら王位にふさわしくないんじゃないか……」
 けれどそれは、王位を継がないためのいいわけだ。やれるだけのことをやったのであればともかく、ただ逃げているだけ。王の責任から、そして何より『フォルセティ』から。
 しかし、もういつまでも逃げてはいられない。事態は加速している。レヴィン自身、自分の迷いを断たなければならないときが迫っていることは、十分に分かっていた。




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