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永き誓い・第十二話




 イード砂漠北側から、イザーク王国までは地図の上では、それほど距離はない。しかし、イザーク王国は、他の国々とほとんど交流がなかった。それは、距離以外の理由があったのだ。
 その国境は、非常に険しい山々が続いている。ゆえに、イザーク王国を訪れるものは自然、少なくなり、必然的に、イザークの情報そのものも制限される。だから、イザークは蛮族の住む土地、と呼ばれるようになったのだ。
 しかしその評価は、少なくとも正しくはない、とシャナンは思っている。
 イザーク王国にだって高度な建築技術はあるし、様々な工芸品もある。確かに、グランベルやアグストリアの文明というものは、イザークより洗練されてはいると思う。だが、蛮土と呼ばれるほどに差があるとは、思えなかった。結局、交流の少なさが、すなわちその交通の利便の悪さが、イザーク王国を蛮土と呼ばせしめていたのだろう。
 もっとも、シャナンは故国のことは良く覚えてはいない。この道も、かつてイザーク王国を出るときに似たような道を通ったはずだが、良く覚えていないのだ。あの時は、アイラに手を引かれる、何も出来ない無力な子供だった。滅び行く故国から逃げ出す逃亡者。それが自分だった。
 それから三年あまり。
 まさか、再び逃亡者として、同じ道を戻ることになるとは思わなかった。
 九歳、という年齢は、やはりまだ無力な子供の域を出ないだろう。けど今、シャナンは自分よりさらに弱い存在を守らなければならない。最年長でも、まだ二歳になったばかりのセリスである。中には、まだ生まれてから半年ほどしか経っていないような赤ん坊までいるのだ。
 そういう捉え方だと、一緒に来ているオイフェの方が、さらに自分の責務の重大さを感じているだろう。
 もう十七歳。正式に騎士として叙勲を受けていないとはいえ、もう年齢的にも、そして実力的にも立派な騎士である。
 だが。これからからは、君主ではなく自らの判断で生き延びなくてはならない。その重圧は、計り知れないものがあるだろう。せめてその重荷を少しでも軽く。シャナンはそう考えていた。

 山道には、当然だが馬車は不向きである。だが、シャナン達は馬車を捨てていくわけにはいかなかった。
 馬車を捨てれば歩くしかない。しかし、山道を歩く、となると二歳のセリスでは不安であるし、その他の子供たちは論外である。かといって、抱えていくには、抱えて歩ける人数が足りなかった。シャナンはどうやっても一人である。あとはオイフェ、そしてもう一人ついてきたエーディンが二人ずつ抱えて、やっと全員を連れて行くことが出来る。だが、それは当然不可能だ。だから、多少難行しても、馬車で行く必要があったのだった。
 春に入ったとはいっても、イザークもシレジア同様、寒さの厳しい大地である。リューベック城周辺は暖かかったが、山道では、季節が一月は戻ったような気がする。防寒着や、食料など、シグルドができる限りの物資を持たせてくれていたので、寒さや飢えの心配はそれほどなかったのだが、先が見えない不安が、シャナンやオイフェ、エーディンらを押し潰そうとしているかのようである。
 あるいは、絶望で狂ってしまうのではないか、とも思える状況であるのだが、それでもかろうじて彼らを踏みとどまらせたのは、他ならぬセリス達の存在であった。
 彼らをとにかく安全なところまで送り届ける。どこかは考えてはいない。だが、少なくとも彼らを無事に育てなければならない。彼らが、健やかに成長すること。それこそが、シグルドやアイラ達の願いなのだから。
 イザーク王国は、すでに滅ぼされたとはいえ、その国土は広い。広さだけならば、グランベル王国の半分はある。その広大な国土の大半は、乾燥した草原と山であり、穀物はあまり取れない。だから、イザーク王国の主産業は畜産であり、多くの者が放牧をしつつ国内を常に移動し続ける。ゆえに、その国土のすみからすみまで目を光らせるのは実質不可能であり、潜伏するのは容易である。
 それに、セリスの存在などは、まだ知られてはいない。市井に紛れて過ごすことも、十分に可能だろう。
 最大の問題は、イザークの地理に通じている者が、一行にいないことだった。シャナンはイザーク出身といっても、幼かったため良く覚えていない。オイフェや、エーディンは、当然だが初めての土地である。アイラやホリンならばかなり詳しかったのだろうが、今それを言っても仕方がない。
 ただそれでも、グランベル王国には、大陸全土の地図が――いつ測量されたものかは不明だが――あり、オイフェはそれを見たこともある。詳しい地名などは覚えてはいないが、覚えていても意味はない。ただ、方角と大体の距離は分かる。それだけが、今の彼らにとっては頼りであった。

 山道を進んで十日。おそらく、国境は越えてもうイザークに入っているはずである。だが、いつまで経っても山は続いていた。オイフェの記憶が正しければ、そろそろ平原に出るはずなのだが、その地図の記述が正しいとは限らないし、また彼らが予定通り進んでいる保証もない。
 太陽の方角等から、進む方向は間違っていない、というのが唯一正確な情報だ。そして、今のイザークの状態など、彼らは全く知らないのだ。
 そうして十二日目。彼らはようやく人家を見つけることができた。山間にある小さな集落だが、食料も尽きつつあったシャナン達にとっては、まさにオアシスに見えたのだ。
 しかし、その期待はあっさりと裏切られた。集落には誰もいなかったのだ。多少荒らされてはいるが、焼かれた跡はない。おそらく、住んでいた者たちが集落を捨てたのだろう。地理的には、おそらくイザークの入り口に近い。グランベルの侵攻に対して、村を捨てて逃げた、というところだろうか。
 だがそれでも、家がある、というだけで彼らにはありがたかった。情報を手に入れることはできなかったが、とにかく人が住んでいる領域まで来た、ということだけは確実になったのだから。
 家には残念ながら食料は残されてはいなかったが、水は水場から補給できた。
 とりあえず今日はここで休む、ということに決めると、オイフェ達は大き目の――多分集落の長が住んでいたと思われる――家を借りることにして、いくらか荷を下ろした。いざという可能性はあるので、いつでも出発はできるような体勢は整えておく。
 ある程度夜営の準備が済むと、オイフェは剣を持って立ち上がった。
「シャナン、セリス様達や、エーディン様を頼む。私は周辺を見て回ってくる」
 シャナンはそれなら自分が、と言おうとして、やめた。少なくとも、自分はまだ子供である。だがそれでもなお、ここを任せてくれたのだ。無論、見回りの方が危険は大きい。その危険にシャナンを遭わせまい、という心遣いでもあるのだろう。
「うん、分かった。ここは任せて。でも、気をつけて」
 オイフェは、分かった、とだけ言うと、暗い森に消えていった。
 まだ昼を少し過ぎた程度のはずなのだが、森は深く、それは、かつてディアドラとシグルドが再会したあのヴェルダンの森を思い出させた。涙が出そうになるのを、かろうじて堪える。今、自分はこの一団を守るためにいるのだ。ここで泣いてなんていられない。
 エーディンも、攻撃魔法を使うことはできるのだが、元々司祭である彼女は、使える魔法の威力が大きく制限されている。訓練された兵士はもちろん、盗賊や野盗が相手でも、一撃で倒すことは困難なのだ。
 もっとも、実はシャナン自身も不安だった。
 もし、敵が、あるいは盗賊などが出てきたときどうするのか。今まで、剣の相手はホリンやアイラであり、もちろんその剣で誰かを斬ったことなどない。人を斬る、ということはその人を殺すことだ。その感覚は、シャナンには分からない。だから、良く分からない不安だけが広がっていたのだ。

 陽が山陰に消えつつある時間。その音に気付いたのは、シャナンが最初であった。
 いつまでも帰ってこないオイフェが心配になり始め、不安を感じたとき、静まり返った山々にかすかに響いたのは、剣戟の音であった。この周辺に、そんなに剣を持った人がいるとは思えない。それに、オイフェが行った方向とも合致する。
 シャナンは、急に不安になった。音のした方向に行くべきか。それともここでセリス達を守るべきか。
「行きなさい、シャナン。ここは私がいるから。私だって、ミデェールと共に、戦場に出ていたのよ」
 エーディンはそういうと、風の魔道書を取り出す。シャナンは一瞬迷うと、剣をとった。
「エーディン、ここはお願いっ」
 その時はもうシャナンは走り出していた。あっという間に森の闇に消える。セリスが、それを見ていて、エーディンのローブの裾を引っ張った。
「しゃな、どっか行くの?」
 エーディンは、セリスと同じ高さまでかがみ込むと、セリスを抱き上げた。
「そう。シャナンお兄ちゃんは、みんなのためにがんばっているの。だから、みんなもできるだけいい子にしていないとね」
 そう言うと、セリスを抱きかかえたまま、家に入っていく。そして、明りを遮光板で隠した。馬車は、家の裏にある。さすがにこれは隠せないが、夕闇では判別はつきにくいだろう。万に一つ見つかったら、その時は。
 エーディンはそう決心すると、魔道書を持つ手に力を込めた。

「く、まさかこんなところにまで……」
 オイフェは、六人を相手にしていた。装備を見る限り、元はグランベル軍の兵士だ。多分軍を離脱、あるいは脱走して、そのまま盗賊となったのだろう。だが、相手も正式の訓練を受けているだけに、数の差もあって、オイフェ一人では非常に厳しい状況だ。せめて、二、三人なら同時になんとかする自信はあるが、六人ともなると、背後を取られないようにするだけで精一杯である。
 オイフェが、上等な衣服を着ているのが、狙われた理由だった。いざとなれば売って金にしよう、と思っていたのだが、盗賊達には格好の獲物に映ったのだろう。しかしそれで、油断などしないで確実に人数を利用して追いつめるところは、そつがない。グランベル軍の兵士のレベルの高さを窺わせるが、だがこの場合は忌々しかった。
「素直に殺されろよ。どうせその様子じゃ、滅んだイザークの貴族か誰かだろう。イザーク人にしては珍しい髪の色だが……」
 確かに、まさかこんなところにグランベルの貴族が来ているなどとは思うまい。だが、かといって身分を明かせば、彼らが見逃してくれるとは思えない。また、彼らを逃がしてしまったときに、自分達が生きて、逃げていることが知れてしまう。それは、もっと都合が悪い。
「私はまだ……死ぬわけにはいかないんだ!!」
 オイフェはそういうと、一番近くにいる一人に斬りかかった。その鋭さは、彼らの比ではない。しかし、相手はかろうじて受け止めていた。相手の剣は大きく弾かれる。そこへ、止めの一撃を、といきたいところだが、即座に別の方向から振り下ろされた剣を弾く。多対一では、瞬間で連撃を繰り出す力――たとえばアイラ王女の流星剣のような――か、相手が受けるその剣ごと斬り下ろすほどの力――ホリンの月光剣のような――でもない限り、わずかな隙を突くしかない。しかし、相手もまた、それは良く分かっているのだろう。その隙はほとんど見せてくれないのだ。
 一度にその動きを把握できるのは、オイフェには三人が限界であった。そのため、返す一撃で倒せる状況、というものがほとんど作れない。このままだと、いつまで経ってもお互い何もできず、結果人数の少ないオイフェの方が先に疲労するだろう。このままでは、いつかは殺される。今自分が死んだら、シグルド様達から預かった子供たちはどうなるのか。そして、シャナンや、エーディンも。
「うおおお!!」
 オイフェは一か八か、突撃をかけた。致命傷さえ避けて、倒れなければ何とかなる。不意をつかれた盗賊達は、狙われた一人のサポートに回るのが一瞬遅れた。その間に、オイフェの剣は、水平に相手の頚部を薙ぐ。半瞬遅れて、黒い――本来は赤い――しぶきが首から飛び散った。
「おのれ!!」
 盗賊達は、同時に襲い掛かってきた。しかも、お互いがお互いの死角を庇うように。完璧とも言える集団戦法である。
 オイフェは知らなかったが、これが、グランベル軍がイザークの兵を相手に戦うときに取り続けた戦法なのだ。個人の戦闘能力では、イザークの兵はグランベルの兵を圧倒していた。それに対抗するために、数で勝るグランベル軍が訓練した戦法が、この集団戦闘技術だったのである。
「くっ!!!」
 ほぼ同時に襲いかかる五本の剣を四本まで弾いたのは、オイフェの剣才が並外れたものであることを証明するものである。だが、五本目を弾こうとしたとき、最初に弾かれた剣が再びオイフェに襲いかかったのだ。
「死ね!!」
 腹部を狙われたその一撃で、致命傷を受けなかったのは半ば奇跡だった。しかもそれで油断したのか、斬りつけた盗賊の眉間に、オイフェの剣が突き刺さる。その剣を抜く反動で、オイフェは他の四人から距離を取り、構え直した。傷は浅いとは言えないが、戦えないほどではない。
 だが、突然体が重くなった。立っていることすら辛い。目眩がしてくる。
「へ、大した腕だったが、毒には勝てなかったようだあ」
 その言葉で、突然の変調の理由は合点がいった。なんと卑劣なことか。剣に毒まで塗っているとは。
「よくも仲間を二人も殺してくれたなあ。まあ良くがんばったとは言ってやるよ。だが……」
 盗賊の一人が、そう言いながら近づいてくる。気がついたら、すでに手に剣はなく、両膝をついていた。体に力が入らない。意識も朦朧としてきていた。立たなければ、という意志が空回りして、まるで、自分の体でないようだ。
「そのがんばりもここまでだなあ。あばよ、兄ちゃん」
 男の一人が、ゆっくり近づいてくる。しかし、まるで夢の中のようだ。
「シグルド様……申し訳ありません。私は……」
 それは、言葉になっていなかった。だが、男の剣は振り下ろされてこなかった。代わりに聞こえたのは、剣と剣がぶつかり合う音。動かない体を、必死に動かして顔を上げると、そこには少年――シャナンが男たちの前に立っていたのだ。
「なんだこのガキは!!」
「オイフェから離れろ!!!」
 一瞬、男たちは圧倒された。だが、すぐ相手が子供だと知って、自分を取り戻す。
「何言ってやがる。大体、こいつはもう毒にやられて、もうすぐ死んじまうよ」
 男たちは下品な笑いと同時に、嘲るように言った。
「お……お前ら!!!」
 シャナンの中で何かが弾けた。撃ち放たれた矢のように突っ込んでくる。その迅さは、男たちの想像をはるかに超えていた。
「うわあああああああ!!!!」
 そのとき、シャナンは確かに災厄を振りまく暴風であった。触れるものすべてを斬り刻み、死をもたらす黒き死神。
 男たちは、たかが子供、と侮っていた認識を、仲間の一人が倒された段階で捨て去っていたが、シャナンの迅さは、男たちでは対応できるものではなかったのだ。シャナンの攻撃は、力が弱いために一撃では致命傷にならない。だが、無数に斬りつけられてはその限りではない。
「ば……ばかな……」
 最後の一人――リーダーであった男は、仲間がほんのわずかな間に殺されるのを、呆然と見ていた。かつて、イザークと戦ったときでも、彼はこれほどの使い手を見ていない。まして、相手はどう見てもまだ十歳前後の子供なのだ。
「こいつ……よくも仲間を!!」
 確かに、この子供は圧倒的に迅い。しかし、一撃が弱い。対して、自分の剣には毒が塗ってある。一撃でもかすれば勝てるのだ。それが、彼の自信でもあった。
 だが。
「お前達が……!!!」
 その時、彼は確かに見た。子供から、翡翠を光に透かしたようなオーラが立ち昇ったのを。そして、それらが全て、光の筋となり、自分に降り注ぐのを。それが、彼の見た最期の光景だった。

 正気に戻ったとき、シャナンが見たものは、夕闇の暗がりの中、ほとんど真っ黒に染まった大地と、屍であった。ほんの少し前まで、動き、話していたのもの。それを、絶ったのは自分である、という認識が、今更のように湧き上がってきた。剣を持つ手が震えている。人の命を絶つという重み。
「あ……ぼくは……」
 自分がやったということは、剣についた、まだ滴り落ちている血が教えてくれている。その命を奪われ、「もの」と化した人。それが、目の前にあるという現実は、言い知れぬ恐怖となって、少年の心を揺さぶった。
 殺さなければ、自分が殺された。
 それは、わかっている。
 だが、それでも殺したのは自分だ。
 彼らの人生に、終止符を、強制的にうったのだ。
 自分が。
 人の命を、すなわちその後の全てを奪い、闇へ落とす。
 それが、自分がやったこと。
 当たり前の、剣を持つ以上は必ずいつかは人を殺す、とわかっていたのに。
 覚悟はできていたと思ったのに。
 剣を持つ手が、がたがたと震えていた。
 夕闇の向こうから、何かが見ているような気がする。
 人の命を奪ったという罪を、告発するかのように。
 息が詰まる。
 自分が殺した命の重みが、まるで自分を圧迫しているようだ。
「シャナ……ン………」
 シャナンを、急に現実に戻らせたのは、オイフェのかすれるような声だった。
「オイフェ!!」
 シャナンは慌ててオイフェのそばに駆け寄る。だが、オイフェの意識は、すでになかった。

「オイフェ、しっかりして。もうエーディンのところへ着くから。それまでの辛抱だから」
 わずか九歳の子供が、十七歳の男性を担いで歩く労力は、相当のものであったが、シャナンはそれでもオイフェを担いで、集落まで向かった。道などほとんどない。かろうじて覚えている記憶を頼りにシャナンが集落に着いた時は、すでに陽はその姿をほぼ山陰に隠していた。
「エーディン、オイフェが大変なんだ。お願い。助けてよ」
 エーディンは誰かが戻ってきて、息を潜めていたのだが、シャナンの声を聞くと、急ぎ出てきて、オイフェを見る。傷は深いが、まだかろうじて生きている状態だ。
「ひどい……まって。今……」
 エーディンはそう言うと、宝玉のついた杖をかざし、精神を集中する。
「大いなる神々よ。その、慈悲なる心をもちて、この傷つき倒れしものの傷を、癒したまえ……」
 杖の宝玉が光り輝き、そしてオイフェを包み込む。ややあって、オイフェの傷はほとんどわからないほどになっていた。だが、それでもオイフェはまだ苦しそうだ。
「そんな……傷はもう治っているのに……」
「ど、毒が……」
 傷が治ったため、意識が戻ったのだろう。オイフェが、なんとか声を出した。
「毒……!? まさか。それじゃあ……」
 エーディンの顔が真っ青になった。シャナンも、エーディンのただならぬ変化に不安になる。
「どうしたの? 早く治してあげてよ。このままじゃ………」
 シャナンは言葉を切る。「死んじゃうよ」とは怖くて言えなかったのだ。だが、エーディンは首を振った。
「だめ。毒の治療をする魔法は、私では使えないの。解毒剤か何かがないと……」
 あるわけがない。そもそも、どんな毒かもわからないのだ。
「じゃあ、それじゃあオイフェは……」
 絶望が、シャナン達を包み込んだ。
 いつのまにか、完全に陽は落ちている。
 闇は、さらに深く、まるでシャナン達の行く末を暗示するかのようですらあった。



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