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聖戦再び




 すでに収穫の季節も間近であるこの時期、大地は鮮やかな金色の小麦畑で埋め尽くされ、それは豊かな農業生産を誇る北トラキアにとっては、ある種風物詩的なものでもあった。
 太陽が西に傾ぐこの時間、その金色の畑は朱い光を受けて、赤銅色に染まった大地が遥か地平まで広がる。そして人々はその年の収穫に感謝し、まもなく訪れる収穫と、それに続く収穫祭を心待ちにするのだ。
 だが、今目の前に広がるのは、黒い土が露出し、手入れもされず雑草ばかりの、まるで開墾途中で放棄されたかのような畑だ。
 荒涼たる大地は、そこへ至るまで目隠しして連れてこられた者ならば、そこがトラキア王国の中でも、最も豊かな穀倉地帯であると分かる者は一人もいないだろう。
「ひどい……な……」
 シャナンは半ば以上、本気でこのトラキア王国が今年の冬を越せるかを心配した。
 ユグドラルの各国は、密接な繋がりを持っている。一国が不作であったとしても、他国が援助する協定は存在するし、また、仮に大陸全土で不作であったとしても、少なくとも一年はもつように備蓄するようにしている。イザーク王国も無論、一年分の備蓄はイザーク王城を始め、各都市に蓄えてある。
 そして今年は、ほとんどの場所でまともに収穫など出来ていない。皮肉なもので、今年、イザーク王国は非常に低温で、収穫が例年の半分もない、と報告されている。それは、シレジア王国も同じだろう。元々シレジア王国は、ユグドラルの国々の中で最も農業生産能力が低い。例年であれば、イザークは援助してもらいたいくらいの状況ではあるし、シレジアは元々食料に関してはかなりを輸入に頼っている。だが、イザークとシレジアだけが、ユグドラルの国々の中で、今回の大乱の影響が最も小さいはずの地域なのだ。
 それでも、各国は備蓄を解放すれば何とかなる。だが。
「トラキアは、これは……」
 シャナンの考えを引き継ぐように、セティが呟いた。彼もまた、この光景を見て同じ事を考えたらしい。
 コノートが攻囲されてすでに四ヶ月以上が経過している。そしてそれは、北トラキアの各都市も同じだった。
 アルスター、レンスターに関しては、すでに攻囲は解かれている。メルゲンを突破した連合軍が、攻囲軍を撃破したのだ。アルスター、レンスターを攻囲していた軍は、規模は一千程度であり、二万を超える連合軍の前に文字通り一蹴されて四散した。
 だが、数ヶ月に及ぶ篭城戦は、当然だが備蓄されていた食糧を大幅に削っていた。
「だが、いま心配したところでどうしようもない。とにかく、コノートの解放が先だ」
 シャナンの言葉に、セティが頷く。
 グラン暦七九九年初秋。
 春に始まった大陸の混乱は、ようやくその最終局へと突入しようとしていた。

 その、コノートの状況は半ば絶望的という状況だった。
 城壁はその大半が砕け、すでに壁としてではなく瓦礫として敵の侵入を防ぐ役目をかろうじて果たしている。
 城内の食料の備蓄はさすがにまだあるが、それは備蓄が豊富であった事に加え、それを消費する側――すなわち篭城する側の人間の数が減少しているから、というのもあるのだ。
 当初、コノートに篭城した人数は二万以上であった。だが今、第三街壁すら破壊され、王城を残すのみとなったコノート城にいる人の数は、一万を少し出た程度である。しかも残っている人々で、無傷のものは戦う力のない子供か老人、あるいは女性であり、男女問わず戦う力を持つ者で、無傷であるものは皆無だ。実質、戦力として数えられるのは二千人あまりしかいない。
 それでもなお、コノートが持ちこたえていたのは、この絶望的な状況でなお、抗戦を諦めず、また、絶望する事もなく人々の前に立ち士気を鼓舞する国王リーフと、そして同じく絶望を感じさせない王妃ナンナの存在があったからだ。
「ま、こういうのは初めてじゃないしね」
 リーフは小さく呟くと、隣のナンナもまた、小さく頷いた。
 二十年以上も前、リーフはこれより遥かに少ない兵力で――敵も今よりは少なかったが――ボロボロになったレンスター城に、半年あまりも持ちこたえた事がある。しかも、あの時は外から援軍が来るアテすらなく、文字通り先の見えない戦いであった。
 だが、今は違う。
 確かに、状況は厳しい。だが、リーフはセリスを、そして彼の息子であるセリオを信じていた。きっと援軍は来る。それを期待できる今の状況は、少なくともあの時より、リーフにとっては楽なのである。
「それにしてもまさか、このコノートの地形がこんな形で役に立つとはなぁ」
 コノートは、トラキア大河の河口にある大三角州の上にある。三角州とは、河が運んできた土砂が堆積して出来た地形であり、当然だが地盤は弱い。コノート城がある場所だけは、かつてこの三角州が出来る『核』になった場所らしく、非常に強固な岩盤を持つが、それ以外は実は驚くほど地盤が緩いのだ。
 そのため、この地に住む人々は、長い時間をかけ、石を埋め、杭をさして地盤を固定して、街の地盤を安定させてきた。今では、コノートの地盤は相当に安定しているが、例外がある。それが、王城の周囲だ。
 コノート城はこの地に人が住まうようになった時から、城砦などが建設されていた土地らしい。そして、その防備のため、城砦のある岩盤の周囲だけは、太古の昔からまったく地盤強化が行われていない。現在も無論それは変わっておらず、リーフはコノート城を整備するにあたって、この周囲をわざわざ掘り下げ、堀として、さらにトラキア大河の流れを一部引き込んだのだ。
 そして現在、コノートはその堀を境界として、敵とにらみ合っている。
 コノートの城壁は、かつてロプト帝国時代に造られた極めて頑丈なもので、帝国崩壊後もそのまま用いられ、リーフが遷都するに際しても、若干の補修工事だけでそのまま流用されたほどである。
 この、余りにも堅牢な作りゆえに、かつての解放軍は奇策を用いてフリージ軍に、コノートが陥落したように見せかけて勝利したのだが、今回、敵にその様な理性的判断を下す相手はいない。仮にいたとしても、それを兵が実行できない。
 無論、コノートにもいわゆる秘密の通路というものは存在するが、リーフはそれらも完全に封鎖している。それに、『敵』がその存在に気付いているとも思えない。
 そして、敵軍の街壁破壊の最大の戦力は、巨大なゴーレムであるのだが、このゴーレムはまったく役に立たなかった。
 ゴーレムの重量では、堀を渡ろうとすると、川底に完全に足が囚われ、あろうことかそのまま沈んでしまうのである。
 そしてゴーレムの強度は同じゴーレムを支えられるほどの、また、実は耐久力はそれほどではないことも分かっていた。そのため、沈んだゴーレムを足がかりに別のゴーレムが堀を渡ろうとしても、下敷きにされたゴーレムはあっさり崩壊し、あるいはグングニル、ゲイボルグといった神器の攻撃の前に破壊され、王城に近づく事も出来ないのだ。
 とはいえ、すでに三ヶ月。
 狭い城内に閉じ込められた人々の疲労は、すでに限界に達しつつあった。

 この戦いが始まって、コノートで、それまでと変わらぬ生活を送っているものはほぼいないに等しい。だが、皆無ではない。その数少ない例外が、城内に勤めている侍女達であった。
 その侍女の一人、ザヴィヤヴァの仕事も、戦いの前と後で、それほど変わりはない。無論、彼女が主に接していたセネル王子は戦闘に出る事が増えたし、その意味ではまったく同一と言うわけではないが、基本的な仕事の内容に変化はない。強いて言えば、時間があまりに不規則になった、ということだろう。
 ただ、この三ヶ月で分かったことだが、敵軍は日が沈んでから攻撃してくることは極めて稀だった。理由は分からない。
 異形の者やゴーレムであっても休息が必要なのか、暗闇では視界が悪いのか、それは分からないが、そのおかげで、コノートがまだ陥落してない、というのもある。
 とはいえ、さすがに三ヶ月も城外に出ることなく、しかも緊張し続ければ、普通は神経が磨り減って参ってしまう。実際、ザヴィヤヴァの同僚には何人も倒れた者がいる。
 ただ、ザヴィヤヴァは生来の(人によっては楽天的とも言われる)前向きな性格もあってか、この状況でも倒れるほどに参ってはいない。むしろ、セネル王子の方がかなり疲労していた。だが、無理もない。
 幸い、ディオン王子はリーフ王がコノートに入城してから、半月ほどでほぼ動けるように、さらに半月で完全に回復した。それでようやく、セネル王子の重責も少しは和らいだのだが、かといって彼が暇になるということは、もちろんない。
 現在、コノート城にいる戦力は、コノートの騎士、兵士が一千、それにグランベルからの援軍とトラキアの傭兵の混成部隊が四百、義勇兵が一千というところだ。コノートの堅牢な城壁のおかげで、この三ヶ月間持ちこたえてきたのだが、それでも三ヶ月前に比べると戦力は半分ほどに減っている。減った人数は、そのまま死者の数へと換算されている。
 この三ヶ月の間にザヴィヤヴァが知り合った人にも、死者の列に加わったものは少なくない。
 時刻は夕暮れ。太陽はすでに地平にかかり、敵軍の動きが鈍くなり始める時間である。
 この時間になると、ザヴィヤヴァは安心する。城壁へ迫る敵軍の気配が、潮が引くように遠のく、それが分かるのだ。同時に、城内に安堵感が溢れる。今日も持ちこたえられた、その事実に人々は神へ感謝するのだ。
 城内にはあちこちに兵の休む姿があり、今頃大広間は炊き出しを行う侍女と兵たちで溢れかえっていることだろう。
 ただ、さすがにザヴィヤヴァがいるこの王室の居住区画には、人はあまりいない。いるとしても――。
「あら、アルフィリア様?」
 いるとしても、指揮官クラスだけである。
 その一人、グランベルからの援軍であり、傭兵隊長を務めるアルフィリアは、廊下の突き当たりにあるラウンジの椅子に腰を下ろしていた。すぐ横にある窓からは、今まさに海に沈もうとする太陽が見える。
 窓際は何が飛来するか分からないから危険なのだが、城の中央付近であるこの辺りまでは、さすがに攻撃が飛んでくる事はない。
「様はやめてほしいって……まあ、もういいけど」
 アルフィリアは半分諦めたように呟く。
「お茶をお持ちしましょうか?」
 ザヴィヤヴァの言葉に、アルフィリアは数瞬考えた後「お願いするわ」とだけ言って、再び窓の外に視線を転じた。
 空は見事な朱色に染まっているが、今のアルフィリアにはそれは血の色にしか見えない。
 この三ヶ月で、アルフィリアの部下の損害はわずかに百名。損耗率は最も少なく、常に最前線にいた事を考えれば驚異的な数字である。実際、リーフなども彼女らの部隊の実力は高く評価している。だがそれでも、百名を失っている事実は、アルフィリアには辛い。
 元々アルフィリアは一人で仕事をする事が多い傭兵だ。まして、このように指揮する立場になる事は、滅多にない。だが今回、セリオはアルフィリアを抜擢した。無論最初、断ろうとしたのだが、セリオの言葉で断れなくなってしまったのだ。
「君が他人の指揮で素直に動くとは思えないし、何より君はどんな時でも生き残る事を考えられるだろう?」
 卑怯な言い方だ、と思う。だが確かに、愚にもつかない指揮官の下で犬死するのも、その指揮で同僚が倒れるのも見たくはない。無論、十分すぎる報酬は約束されているが――とんだ貧乏くじだ、とも思う。
 挙句、トラキアの騎士が次々に倒れる中、今では一部のトラキア兵の指揮まで執っている。
「お疲れのようですね、どうぞ」
 そういって、ザヴィヤヴァが出したのは不思議な香りのお茶だった。こういうところには無教養だが、多分ハーブか何かのお茶だろう。すーっとするような香りが、澱んでいた心に気持ちいい。
「大丈夫。私よりきつい人はいるしね。お茶、美味しいわ。ありがとう」
 ザヴィヤヴァはにっこりと微笑んだ。
 ザヴィヤヴァとアルフィリアは、この三ヶ月でよく話すようになっていた。最初に、ザヴィヤヴァの弟アララフを助けた縁で、というわけでもないだろうが、アルフィリアの寝室も、ザヴィヤヴァが担当しているため、よく話すようになったのである。ただし、ザヴィヤヴァは必ず『アルフィリア様』と呼び、アルフィリアは最初は直すように言っていたのだが、最近はもう諦めている。
 ザヴィヤヴァからしてみれば、アルフィリアはコノートを守ってくれる戦士の一人であり、ましてその隊長。さらにアララフの命を救ってくれた人物でもあるのだ。感謝してもしきれない。
 アルフィリアはそのまま無言で外を見る。
 空の色と同じ色に染まったアルフィリアの髪は、まるで朱銀とでもいうような輝きを放っていて、その端正な顔とあいまって、非常に美しく見えた。実際、何度見ても、彼女が手練の傭兵であるとは思えない。
「戦局は……楽じゃないですよね、すみません」
 最前線に立つわけではないザヴィヤヴァは、前線の様子は想像するしかない。無論怪我人の手当てなどは何度もしてるし、激しい戦闘が行われている事は承知している。だが、実際に戦っている様子となると、彼女は想像するしかないのである。
「うん。まあ何とかなるわ。あと三ヶ月くらいはもってみせる」
 逆に言えば、あと三ヶ月が限界だ、と言うことだ。そのくらいはザヴィヤヴァにも分かる。
 ザヴィヤヴァはお喋り好きな性格だったのだが、ここ数ヶ月でその性格はすっかり影を潜めてしまっていた。実際、それどころではない。
 そして、リーフもまた、あと三ヶ月が限界だと踏んでいた。
 三ヶ月もすると、冬になる。北トラキアは温暖な気候で知られているが、冬が寒くないわけではない。雪も降る。だが、城の大広間などで寝泊りする避難している市民に、十分な暖を与える事は出来ないのだ。少なからず、凍え死ぬことになるだろう。
 ただ、リーフはそれほど絶望視はしていない。あと三ヶ月もあれば、援軍は来る、と信じているのだ。
 そして実際、援軍は、まさにすぐそこまで来ているのだった。

「ん〜〜〜〜〜〜〜っ」
 食事の途中でマズルは、固くなった体をほぐすように大きく伸ばした。その拍子に、伸ばした手が別の人物に当たりそうになり、慌てて引っ込める。
「ああ、すまない……って、なんだ、ウルクか」
「なんだとはひどいな。そこ、いいか?」
 ウルクはそういうと、マズルの向かいの席を顎で示す。
「ああ」
 その返事を受けて、ウルクはマズルの向かい側に座った。
 マズルとウルクが会ったのは、無論このトラキアである。
 トラキア軍に雇われたウルクであったが、その後の相次ぐ戦いでトラキア傭兵は壊滅的な打撃を受け、かろうじて百名だけがリーフと共にコノートに帰り着いた。その時すでにトラキアの傭兵は指揮官をことごとく失っており、グランベルからの援軍であったアルフィリアの指揮下に入ったのである。
 最初、ウルクは多少の抵抗があった。
 女性の、それも自分とほとんど年齢の変わらない――実は同じだと後で知った――女性の下で働くことに、抵抗を覚えない方がおかしいだろう。実際、グランベルからの傭兵にはアルフィリアより年上の者も多くいたし、トラキアの傭兵にもいた。中には隊長とまでいかなくても、それなりに部隊を率いる才覚を見せていた人物もいたのだ。
 だが、雇い主であるリーフ王に逆らうわけにもいかず、ウルクは不承不承、アルフィリアの指揮下に入った。
 それから三ヶ月。いまや、彼女の指揮能力に異をはさむものはいない。
 その、共に戦う中で知り合ったのが、マズルだった。
 最初のうち、ウルクは他のトラキア傭兵らと共に、不満まで行かない鬱屈した感情を吐露していたのだが、そこに通りかかったのがマズルであった。
「まあ、半月もいれば分かるって」
 その言葉どおり、ウルクらは半月もしないうちに、アルフィリアの力量を知る事になったのである。
 その後も、年齢が近いこともあって、ウルクとマズルはよく話すようになったのだ。
 マズルにとって、ウルクはある意味『近い』目標になっていた。
 剣が立ち、さらに魔法も使えるウルクは、満足に読み書きも出来ないマズルにとっては、ある種憧れにも似たものを抱かせる相手だった。アルフィリアも剣も魔法も使えるが、あそこまで差があると目標にする気にもならない。無論、性別が違う、というのも小さからぬ理由である。
 もっとも、のんびりと教えを請う時間などはありはしないが、それでもマズルはウルクと話をした。ウルクも、慕われて悪い気はしなかったし、実際、マズルは剣の実力に関してはかなりのものであった。安心して背を任せられる、というほどではないが、それに近い。
「お互い、今日も生き残ったな」
「悪運が強いんだろ、俺も、ウルクも」
「違いない」
 ウルクは苦笑しつつ、シチューをすすった。
 それ以上、言葉はない。疲れている、というのもあるし、最近の話題は、もはや一つに絞られている。いまさら同じ話をしても仕方ないのだ。
 援軍はいつだろうか、という話は。
 だがこの時、食堂に凄まじい勢いで駆け込んできた兵がいた。そしてその兵が、食堂に駆け込むと同時に叫んだ言葉は、コノートにいる全ての者が、三ヶ月間待ち望んでいた言葉だった。

「まさか……貴方自身がいらっしゃるとは」
 リーフは、まだ完全に回復していないにも関わらず、玉座から降り、入ってきた人物を迎えた。
「天馬騎士を送る事も考えたのですが、ペガサスの白い翼はどうしても目立ちますからね。それに私なら、確実に信用してもらえる」
 そういって、その『使者』はリーフの手を取って微笑んだ。
「お久しぶりです、セティ王」
「リーフ王も、ご無事で何よりです。援軍、遅くなって申し訳ない」
 あろうことか、使者としてコノートを訪れたのは、連合軍副将のセティ本人だった。
 セティはフォルセティの力を使えば、ペガサス同様空を飛ぶ事が出来る。そして、今セティはわざわざ闇にまぎれるために、暗い色の服をまとってコノートに降り立ったのだ。
「連合軍はすでにコノートの西に展開、明朝、夜明けと共にコノートを攻囲する敵軍を殲滅します」
「明朝……いや、夜の方が良いのでは? 奴らは夜はその手を止める。理由は分からないが、この三ヶ月、そのパターンが崩れた事はほとんどない」
「それは、こちらも承知してますが……それゆえに逆に夜襲は敵軍の行動が読めない。こちらが明りに不自由する以上、不確定要素は極力削りたい」
「なるほど……」
 確かに夜襲は有効である可能性は高いが、こちらも明りには不自由する。もし不測の事態があった場合に、対応できない怖れがある。
「承知しました。こちらも合わせて竜騎士を出します。寡兵ではありますが……」
 するとセティはとんでもない、というように首を振った。
「天地二槍を陣頭に掲げた竜騎士を、誰が寡兵と思いますか」
 そういって、セティはリーフの横に控えているディオンとサリオンを見る。会うのは久しぶりだったが、すぐに分かった。
「久しぶりです、セティ陛下」
 ディオンはそういうと一礼し、サリオンもそれに倣った。
「一度大怪我をされたと聞きましたが……もうご回復されたのですね」
「はい……私は。アリオーン殿下のおかげで……」
 アリオーンは、今もなおエッダの神殿で治療を受けているらしい。しかし、もうかつてのように竜に乗る事は絶望的とされている。セティは、本当はその事も――コノートが外部と連絡が取れなくなってアリオーンの消息もまったく不明になっていたので――伝えるつもりだったが、それは後にする事にした。少なくとも、今ここで言う事ではない。ただ、アリオーンは順調に回復している、とだけ伝えた。
「それだけ聞けば十分です。ありがとう、セティ王」
 答えたのはリーフの実姉アルテナだ。この三ヶ月、夫の消息も分からず、どれだけ不安なまま戦ってきたのだろうか、と思うと心が痛む。
 セティは視線を外に転じた。東の空は、まだ暗黒に包まれている。空は曇っているわけではないが、新月なのか頼りない星の光だけでは、夜の闇を照らすことは出来ない。
 それはまるで、今の大陸の様相のようだ、とセティは感じていた。
 だが、それもこれまでだ。
 これ以上の暴虐を許しはしない。
 その想いは、セティもリーフも、そしてコノートにいる全ての者にとって、共通したものだった。

 その、夜明けと共に始まった戦いで、驚くほどあっさりと、コノートの攻囲軍は敗走した。
 だが、それも無理はないだろう。ナーガ、フォルセティ、トールハンマー、バルムンク、スワンチカ、イチイバル、バルキリー、ゲイボルグ、グングニル。十二の神器のうち、実に九つが同じ戦場で振るわれる事など、この二十年一度もなかったことだ。
 まして、連合軍の総数は二万。攻囲軍は一万。数の上でも連合軍は圧倒していたのである。
 さらに、連合軍はゴーレムや異形の怪物との戦いに、慣れていた。メルゲンでの熾烈な戦いに比べたら、驚くほど楽な戦いだったといってもいい。
 かくして、コノートの攻囲は、実に半年振りに解かれたのである。

 コノートは歓声に包まれていた。無理もない。戦いが始まってからであれば半年、狭い城内に押し込まれてから数えても三ヶ月ぶりに、解放されたのである。
 無論、戦いはまだ終わっていない。最大の元凶は残っている。
 だが、この戦いはもう終わりだ、という人は少なからず存在した。
 何しろ、援軍の数と、指揮官の顔ぶれが凄まじい。
 総数は二万。
 総大将が神剣バルムンクの継承者シャナン、副将が風のフォルセティの継承者セティ、それにグランベル各公国の継承者達。神器でこの場にないのは、炎のファラフレイム、魔剣ミストルティン、聖剣ティルフィングの三つだけだ。これは、かつての聖戦より凄まじい戦力である。
 連合軍の将兵はコノートの人々に歓呼をもって迎えられ、軍の大半は城外で待機し、指揮官と一部の騎士が入城した。
 その一人、ドズル公子ヨハンは、リーフ王への挨拶が済んだ後、アーウィルを連れてコノート城を歩き回っていたが、その予想以上の損傷に、眼を丸くしていた。
「すげえな……これでよく、三ヶ月も戦い抜いたもんだ」
「確かに……逆に言えば、この城の堅牢振りを示すというわけでもありますけどね」
「まあな」
 ヨハンの故国であるドズルは、どの城砦も防御に秀でた造りになっている。スワンチカの特性ゆえでもあるのだろう。当然ヨハンも、城砦の防御に関しては詳しい。そのヨハンの眼をもっても、このコノートが三ヶ月も持ちこたえた事実は、驚愕に値する事実だった。
「……お? 誰かいる……って、すげえ美人じゃねえか」
「ちょ、ヨハン公子っ」
 他国の城であると認識して欲しい。ドズル内であればともかく、他国で好ましからざる風評が立つのは、避けなければならない。
 アーウィルは慌てて追いかけようそのヨハンの先にいる女性をみて、思わず声を上げた。
「アルフィリア!?」
 これに驚いたのは、その女性――アルフィリアも同じだった。
「ウィル!?」
「おいおい。なんだよウィル。知り合いか?」
「あ、ああ。知り合いというか……まあ仕事仲間というか。何回か一緒に仕事をした事がある、それだけだ」
「久しぶりね、ウィル。そちらは?」
 アルフィリアはすっと立ち上がり、二人の正面に立った。
 背が高い、というほどではないが低いというほどでもないアルフィリアだが、さすがに鍛え上げられた男性の戦士から見ると、小さく見える。薄暗い城内にあっても目立つその銀髪が、非常に鮮やかだった。
「ドズルのヨハン公子だ。今の俺の雇い主でもある」
 アルフィリアは軽く眼を見張った。
 ドズルのヨハン公子といえば、スワンチカの継承者の名だ。まさかこれで別人という事はないだろう。
 アルフィリアはコノートにいる間に何回かゲイボルグの継承者であるディオン王子と話す機会を得ているが、同じ継承者でもディオン王子とヨハン公子では印象がずいぶん違う。
 ディオンはどちらかというと柔和な印象を感じさせるが、ヨハンは野性的というか活力に満ちた雰囲気がある。
「はじめまして、ヨハン殿下。アルフィリアと申します」
「ヨハン殿下!! シャナン陛下がお呼びです!!」
 アルフィリアがさらに言葉を続けようとしたところで、従騎士の声がそれを遮った。
「分かった、今行く」
 ヨハンはそういうと、やや名残惜しそうにしつつ踵を返す。アーウィルも続こうとしたが、ヨハンがそれを手で制した。
「久しぶりに会ったんだろう。ゆっくりしていけ」
 言葉はまともだが、明らかに誤解した期待を含んだ言い回しだ。だが、訂正する間もなく、ヨハンは廊下に消えていった。
「ずいぶん、楽しそうな雇い主ね」
「……まあな。アルフィリアこそなんでこんなところにいる? 仕事を請け負うのは主にグランベル方面だと思っていたんだが」
 もっともな事を指摘されて、アルフィリアは思わず盛大に溜息をつく。
「それがね……話せば長くなるんだけど……」
 雇い主に、しかもその身分も知らずに騙された者同士の苦労話(というか愚痴)は、夕食時まで続いていた。

「……何年ぶり……になるんだろうか」
 ジーンは、バルコニーで、夕闇に包まれたコノートを見下ろしていた。
 このコノートで、孤児院にいたファバルやアサエロと共に、病身の母を養うために傭兵をしていたのは、もう二十年以上昔だ。終戦の直後、母はこの世を去り、ジーンはアサエロと共にヴェルダン王となるファバルに従ってヴェルダンに行った。その二年後、イザークに嫁ぐパティについてイザークへ行ったのが、二十歳のとき。
 コノートを訪れるのは、母が死んだ時以来だから、実にほぼ二十年ぶりということになる。
 トラキア王国の都になったことは知っていた。その後、コノートが格段に大きくなった事も。ただ、今目の前にある光景は、ジーンが想像していたいかなる光景とも違っていた――当然だが。
 半年に渡って戦場となっていたコノートの市街区は、無残なものだった。
 街を区分けし、また防備の要でもある第一から第三の街壁は、第三街壁を残すのみで、第一、第二街壁はほとんど存在しない。その第三街壁にしたところで、巨大な穴が穿たれている。
 よく耐え切った、と言うのはおそらく誰もが抱く感想だろう。
 かつて自分が住んでいた辺りは、見事なほどに瓦礫しか残っていない。この再建には、一体どれほどかかるのだろうか、と思う。
「本来なら、素晴らしい眺めなのでしょうにね」
 突然聞こえた女性の声に、ジーンは驚いて振り返った。そこにいるのは、女性が四人、男性が二人。
 思い切り目を引くのは、輝くような金色の髪の少女だ。日は沈み、地平をわずかに紅く染め上げるだけの明るさの中、それでもその少女の髪はまるで輝く黄金で出来ているかのように美しかった。
 それだけではない。
 この場にいる四人の女性は、いずれも申し分なく美しいといえる顔立ちだが、その少女は一人だけ際立っている。おそらく男性であろうと女性あろうと、振り返って確認せずにはいられないほどに。
 イザークの王女で『イザークの黒真珠』とも称され、大陸一の美姫、と名高いフェイアのことを、ジーンは思い出した。その彼女と並んでも、この女性の美しさは人々の注目を集めるだろう。後はもはや、黒髪と金髪のどちらが好みか、という低俗な比較しかない。
 そこまで考えて、ジーンはこの女性の名前に思い当たった。
 フェイア王女と並び称される美姫として名高いノディオンのセフィア公女。確か彼女は、数少ないアグストリアからの参列者だったはずだ。
 並んでいる女性のうち、もう一人は面識はないが見覚えがあった。シャナン王と共に軍議に参加したとき、シレジアのセティ王の横にいた女性だ。その場の者の中で最も年若く、そして戦うようにも見えない女性であったため、あとで確認して驚いた。彼女こそが、風のフォルセティの継承者、クローディア王女だったのだ。
 あと二人の男女も記憶にある。ダーナで連合軍が終結した時に、ダーナであったフリージの騎士、オルヴァスとクレオだ。そうなると、立ち位置から察するに、彼らの前に立つのはおそらくフリージ公女シャリンだろう。今回、トールハンマーを継承して参戦している、とは聞いてるし、ジーンもメルゲンの戦いであの凄まじい雷光を見ている。
 最後の男は、アグストリアの紋章が見えるところから察するに、アグストリアの騎士だろう。
「失礼、先客がいるとは……と、ジーン殿か」
「ダーナ以来ですね、オルヴァス殿」
 この中では年長の二人が挨拶を交わす。その後に、ジーンは次々にこの場にいる人物の紹介を受けた。
 最後の一人、名の分からなかったアグストリアの騎士は、カールというらしい。
 なんとも奇妙な集団に思えたが、元々シャリン公女とクローディア王女は友人で、クローディア王女とセフィア公女も友人らしい。残りはその随伴というわけだ。
「前聖戦に参加されていたんですか、貴方は」
 カールが半分以上驚いて問う。カールの年齢だと、前の聖戦は生まれる前の出来事だ。それは他の王女達にとっても同じだし、オルヴァスやクレオにしたところで、生まれてはいてもまだ子供である。
「ええ、まあ。といっても、一兵卒でしたけどね。当時コノートの傭兵で、戦後、ヴェルダン王となったファバル王と懇意にしていた縁で、ヴェルダンに、その後、イザークと……まあ、根無し草です。故郷ではありますが、二十年ぶりというところですし」
「実は私も、コノートは初めてではないんですよ」
 クレオの言葉に、一同は少しだけ驚いた。
「そうなの? クレオ」
「はい。ここがフリージ王国と呼ばれていた時に、コノートで暮らしていた事があります。もっとも、解放軍との戦いが始まる前に、グランベルへ移住しましたので、戦いには巻き込まれておりませんし、住んでいたといってもまだ二歳か三歳くらいで、記憶はほとんどありませんが」
 ただそれでも、ここまで酷い事にはなっていなかったはずだ。
「マディラも酷い事になったと思ってたけ……思ってましたけど、ここは比較になりませんね」
「そうね……義叔父上や叔母上もこれからが大変ね……」
 セフィアが呟く。セフィアの父はノディオン公デルムッドであり、トラキアの王妃ナンナはデルムッドの妹、つまり彼女にとってトラキアの惨事は他人事ではないのだ。
「アグストリアも大変だったようで。まだオーガヒルの海賊も蠢動を続けているとも聞きますが」
「ええ。でも、アグストリアはアルセイド王子がいらっしゃるから、もう大丈夫です」
 ジーンの問いに、セフィアが自信たっぷりに断言した。しかしそれには、クローディアとカール以外の者はやや顔をしかめる。
 アグストリア王アレスが、グランベルのセリス同様呪いに倒れた事はすでに知られているが、セリスの長男セリオは優れた資質で知られているのに対し、アグストリアのアルセイド王子といえば、愚鈍とは言わなくても、良く言って暢気、悪く言えば怠惰な性格で知られている。『昼寝の王子』というあまりありがたくない呼ばれ方もしているくらいだ。
「皆さんの思ってるところは推測は出来ますけど、あの方は文字通り獅子なのです。普段は、ただ眠ってらっしゃるだけの」
 その推測を察したのか、セフィアが自慢げに言う。横でカールも小さく頷いている。
「……なるほど、獅子か」
 上手い揶揄だ、とオルヴァスは思った。
 獅子は主にヴェルダンとアグストリアの間にある平原に住む猛獣だが、立派な鬣で知られる雄は、普段はほとんど眠っているという。狩りをするのは主に雌だ。だが、ひとたび自分や自分の庇護する対象に危害が及ぶとなると、獣王とも呼ばれるその圧倒的な力を示すという。
「王子といえば……むしろ、セリオ王子です。なぜあの方は、バーハラから動かないのです?」
 だが、その質問に答えられる者は、無論いない。だが、セフィアの言葉は誰もが感じている疑問でもあった。
 グランベルは、すでに国内の反乱勢力を、ほぼ完全に鎮圧している。確かに全ての軍を出すわけにはいかないし、実際バーハラの、大陸最精鋭とも謳われるヴァイスリッターは今回も出撃していない。セリオは、グランベルの守りとしてヴァイスリッターとグリューンリッター、ロートリッターを残し、他の公国の戦力は全てトラキアに向けたのだ。これは問題はない。
 ヴァイスリッターはその全員が魔法騎士であるとされ、単独での作戦行動にも長じた者が多い。そのため、現在ヴァイスリッターはグランベル各地で治安の維持と反乱勢力の摘発を行っているらしい。
 そしてシアルフィは、今回の戦いで特に被害の大きかった地域の一つであるため、軍を派遣する余裕がなかった、というのが事実だ。今ひとつ、ロートリッターはイードに対する防壁である。そのために、炎のファラフレイムを継承するエティス公女も、ヴェルトマーに残っている。
 無論、これらの指揮のために残った、というのは説得力がないわけではない。
 だが一方で、セリオは現在知られている継承者中最強の存在と云われている。聖剣ティルフィングと光のナーガの二つを継承する存在であり、しかも剣の実力においてはイザークのシャナン、フィオと同等、魔法に至っても大陸最強と謳われるセティ、ユリアを凌ぐとも噂されているのだ。
 正直、シャリンの圧倒的な力を目の当たりにしているオルヴァスやクレオからすれば、彼女以上の力というのは存在するのか、と思うが、どちらにしても最強の戦力の一人である事は間違いない。
 それに、連合軍の主力はグランベル軍だ。本来であれば、それを率いるのはセリスであるはずだが、彼が倒れている以上、その代理たるセリオが、名目だけでも総大将となるのが自然なはずなのだが。
「きっと何か、事情があるんですよ、絶対」
 シャリンの言葉は、だが本人もそれを信じようとしている、というのが分かる。
 シャリンはこの中で唯一、継承の儀のときにセリオに間近に接している。
 その時、継承を終えたシャリンとセリオは少しだけ話す機会を得ていた。
「私は今、このバーハラを動く事は出来ない。だから、頼む。出来るだけ早く、戦いを終わらせて欲しい」
 セリオは最後にそう言っていた。『動かない』のではない。『動くことが出来ない』と。だから事情があるのだ、とシャリンは思っているのだ。
 一体どんな事情があるのかは、シャリンには分からない。
 だが、あの吸い込まれそうな深い紫の瞳は、本当に自分を案じてくれていた。だから、シャリンはそれを信じたい、と思っていた。

「改めて見ると……壮観ですね、これだけ揃うと」
 リーフの言葉に、シャナンが苦笑した。十二の神器のうち九つが、今この場にある。コノート城の中心、玉座の間の奥の聖堂だ。城下にある大聖堂ではなく、ここにある聖堂は王家が儀式を行うために使うものだ。
 そして今そこに、十二の神器のうち、コノートにある九つ全てが集められていた。
「それにしてもさすがはセティとコープルだな。まさか、神器の力を利用する魔術があるとは思わなかった」
 セティとコープルは、神器の力を使って、コノートに強力な結界を張ったのである。これまでに幾度もあった、闇の攻撃に対抗するためだ。
 無論、完全に防げるとは思っていない。だが、いきなり攻撃されても対応する時間を稼ぐくらいは出来る。
「これで多少はもつと思うのだが」
 そういいつつ、シャナンには不安があった。
 すでに戦いが始まってから半年が過ぎている。セリオが動かない理由を、シャナンはなんとなく察していた。
 そしてもし、その推測が正しいとすれば、もうあまり時間はない。
「しかしこれだけ揃うと……もはや『聖戦』ですね、これは」
 コープルの言葉に、セティはやや苦笑しつつ頷く。リーフもシャナンも、同様に頷いた。
 ある意味、これは、聖戦なのかもしれない。かつて、十二聖戦士はロプト帝国を滅ぼした。だがそれでも、ロプトウスの魔道書を滅ぼせず、ロプトの血脈は生き残り、ロプトウスは復活した。そしてそれは、セリスらによって再び滅ぼされている。
 だが今、再びロプトウスの脅威が大陸を覆いつつある。あるいは、聖戦士はずっとこの戦いを続けなければならないのかもしれない。ロプトウスが滅ぼされる事がない以上、ロプトウスは何らかの形で復活してしまう。だとすれば、これはロプトウスの『呪い』とでもいえるものかもしれない。
「だが、ロプトウスが蘇るなら、何度でも打ち倒す。それが聖戦だというのならば……何度でも、聖戦を我々は勝ち抜いてみせる」
 誰とはなく、この戦いは『第三次聖戦』と呼ばれるようになるだろう、と思っていた。
 あるいはこの先、遥かな未来まで幾度となく、聖戦は繰り返されるのかもしれない。戦いの禍根を断つことが出来ない以上は。
 しかし、未来を見通す力のない彼らは、知りようもなかった。
 この戦いが、後に『聖戦』ではなく『黒の処断』とと呼ばれる事を。
 そして、これまでのこの戦いでの犠牲者の数が、後の歴史書の半数にもまだ届いていないという事実を。
 この時の彼らは、まだ知りようもなかったのである。




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